紅楼夢に再挑戦 ー 前書き。第一回 《甄士隱夢幻識通靈 賈雨村風塵懷閨秀》
紅楼夢。日本では本の名前は知られているが、長編小説であり、日本語訳もあまり見ないので日本人で読んだ人はごくわずかではないか。一方本家の中国では数えきれない人が読んでいるのではないか。香港の本屋に行くと、文学関係の本では他の本に比べて紅楼夢の<参考書>が圧倒的に多い。汗牛充棟ほどではないが、相当のスペースを占めている。(文学関係以外では漢方薬の本がこれまた相当のスペースを占めている。)紅楼夢の<参考書>が多いのは中国人にとっても読むのが難しいから読むためのというよりは、紅楼夢をめぐるいろいろな話の本で、この<いろいろな話>を中国では<紅学>という。つまりは、いろいろな読み方があるのだ。わたしも紅楼夢の挿絵の多い<参考書>を5-6冊買ったがどれもほとんど読み切っていない。
さて個人的には20年ほど前に中国語 (台湾の繁体字本) と英語 (中国の出版社3冊, 1994年第一版) といくつか<参考書>で挑戦したが、理解度は10%以下だったか。内容が中国の年若い<めめしい>プレイボーイと女性中心の話で、それまで読んだ吉川英治の<三国志>や金瓶梅に比べてたいしておもしろくはなかったので途中であきらめた。本の汚れ具合からすると読み進んだのは約半分。後半は曹雪芹の作でではないということもあって、約半分であきらめた。今回は、中国人の友人が<紅楼夢は大小説、いろいろな解釈ができる>というのを聞いて、時間があれば二度目の挑戦をしようと思っていた。
中国語 (台湾の繁体字本) では、今はほぼこれと同等の台湾の<中國哲學書電子化計劃、紅楼夢>というのがあり、ネットで無料でよめる。簡体字変換も可能。英語訳はまだのようだ。https://ctext.org/hongloumeng/zh。今回はこれを利用させてもらう。
第一回
《甄士隱夢幻識通靈 賈雨村風塵懷閨秀》
前回の挑戦では相当気合を入れて第一回を読み始めた記憶があるが、内容がほとんど思い出せないので、理解度は10%以下だったのだろう。第一回ということもあって作者の方も相当気合を入れて書いたに違いない。
<中國哲學書電子化計劃、紅楼夢>
此開卷第一回也。作者自云曾歷過一番夢幻之後,故將真事隱去,而借「通靈」說此《石頭記》一書也,故曰「甄士隱」云云。但書中所記何事何人?自己又云:今風塵碌碌,一事無成,忽念及當日所有之女子,一一細考較去,覺其行止見識皆出我之上,我堂堂鬚眉,誠不若彼裙釵。我實愧則有餘,悔又無益,大無可如何之日也!當此日,欲將已往所賴天恩祖德錦衣紈袴之時,飫甘饜肥之日,背父兄教育之恩,負師友規訓之德,以致今日一技無成,半生潦倒之罪,編述一集,以告天下。知我之負罪固多,然閨閣中歷歷有人,萬不可因我之不肖自護己短,一并使其泯滅也。所以蓬牖茅椽,繩床瓦灶,並不足妨我襟懷。況那晨風夕月,階柳庭花,更覺得潤人筆墨。我雖不學無文,又何妨用假語村言敷衍出來,亦可使閨閣昭傳,復可破一時之悶,醒同人之目,不亦宜乎?故曰「賈雨村」云云。更於篇中間用「夢」「幻」等字,卻是此書本旨,兼寓提醒閱者之意。
看官!你道此書從何而起?說來雖近荒唐,細玩頗有趣味。
幸いネットでこの第一回の丁寧な解説が見つかったのでこれを大いに無断で利用させてもらう。
”
https://blog.goo.ne.jp/inghosono/e/f98a5e939b68e34bf197de4229604afa
中国語学習者のブログ
(前略)
第一回 甄士隠夢幻識通霊 賈雨村風塵懐閨秀
[訳]甄士隠は夢に通霊に通じ、賈雨村は風塵に閨秀を懐う
● 甄士隠 zhen1shi4yin3 は、「真事隠」(真実を隠す)と音が同じ。
● 通霊 tong1ling2 消息によく通じている
● 賈雨村 jia3yu3cun1は「假語村」と音が同じで、「假語村言」(うそや野卑なことば)に通じる
● 風塵 feng1chen2 乱世。浮世
● 閨秀 gui1xiu4 名家の娘
”
以上は第一回の表題<甄士隠夢幻識通霊 賈雨村風塵懐閨秀>の解説。このような参考情報がないと表面的な理解にとどまる。
<甄士隠は夢で通霊に通じ>の方がわかりやすいが、後の<賈雨村風塵懐閨秀(賈雨村は風塵に閨秀を懐う)>に合わせた訳か。
通霊:一般的には
通靈(英語:Mediumship),是據稱在死去人類的靈魂和活著的人類之間進行溝通的一種做法。從業者被稱為靈媒或通靈者等(英語:medium 或 spirit medium)。靈媒は日本語にもなっている。
<懐う>は<思う>と読ませるのだろう。甄士隠と賈雨村は発音から、名前にそれぞれ「真事隠」と「假語村」の隠れた意味があるのだが、二人はあとから出て来る。甄士隠の方は<甄士隠夢幻識通霊>なのでややこしいところがある。
”此開卷第一回也.作者自云:因曾歴過一番夢幻之后,故将真事隠去,而借"通霊"之説,撰此《石頭記》一書也.故曰"甄士隠"云云.
「訳]これは開巻第一回である。作者自ら曰く:嘗て夢、幻のような世の中を経験したので、真実を隠していたが、消息に通じていることを頼みに、この《石頭記》なる一書を撰した。ゆえに「甄士隠」云々と言うのである。
”
ここで作者の言い分が出て来る。
<消息に通じていることを頼みに>。<消息>は上の<通霊>のことだろう。だがよく読むと
因曾歴過一番夢幻之后,故将真事隠去,而借"通霊"之説
は、原文にしたがえば
嘗て夢、幻のような世の中を経験したが、真実を隠すため、"通霊"の説を借りて
となる。
<この《石頭記》なる一書を撰した>。<撰した>は<書いた>でいいだろう。
紅楼夢は当初<石頭記>と呼ばれていた。<石頭記>ー><紅楼夢>の改名は<紅学>の一つか?
”
但書中所記何事何人?自又云:"今風塵碌碌,一事無成,忽念及当日所有之女子,一一細考較去,覚其行止見識,皆出于我之上.
[訳]しかし書中に書いたのは誰のどういう事跡であろうか?自らまた言う。今、浮世であくせく働くも、何事も成し遂げられない。ふと嘗て会った女性達のことに思い廻り、ひとりひとり思い出して比較してみると、その品行や見識は皆、私などよりずっとりっぱであった。
● 碌碌 lu4lu4 あくせく働く
● 一事無成 yi1shi4wu2cheng2 何事も成し遂げられない
● 行止見識 xing2zhi3jian4shi2 品行や見識
”
<忽念及>は<ふと . . . . . 思い廻り>となっているが、<忽(hū)>自体は
1)不注意:忽视。疏忽。忽略。玩忽职守。2)迅速,突然:忽而。忽然。忽地。3)忽高忽低。
のいくつか違った意味がある。<そこつもの>は粗忽者と書く。<日本語の<ふと>はこの<忽(hū)>+<と>ではないか。
また<思い廻り>という言い方は聞いたことがない。<思いめぐらし>の方がいい。
前節の<今風塵碌碌,一事無成、今、浮世であくせく働くも、何事も成し遂げられない>とのつながりが弱い。<何事も成し遂げられてない>とすれば少しよくなるか。
”
何我堂堂須眉,誠不若彼裙釵哉?実愧則有余,悔又無益之大無可如何之日也!
[訳]私はこのようにりっぱな髭と眉を蓄えた偉丈夫であるのに、誠にかの女性達にも及ばないとは。実に恥ずかしくてたまらず、悔やんでも如何ともし難い。
● 堂堂 tang2tang2 堂々とした
● 須眉 xu1mei2 ひげとまゆ。堂堂須眉でりっぱな男子の意味。
● 裙釵 qun2chai1 スカートとかんざし。女性のこと。
● 無可如何 wu2ke3ru2he2 =無可奈何 どうしようもない
”
<悔又無益之大無可如何之日也!>が簡単に<悔やんでも如何ともし難い> となっているが、最後の<之日>は過去の日々ことを言っているのか現在のことを言っているのか?
”
この箇所<中國哲學書電子化計劃>では
我堂堂鬚眉,誠不若彼裙釵。我實愧則有餘,悔又無益,大無可如何之日也!
となっており、後半は区切り方が違う。
私は悔いてなお余りがあり (愧=悔、慚愧という言葉がある)、また悔いても無益である。大無可如何の<大>は無可如何の強調。したがって<まったくもって如何ともし難い>。
”
当此,則自欲将已往所頼天恩祖德,錦衣紈絝之時,飫甘饜肥之日,背父兄教育之恩,負師友規談之,以至今日一技無成,半生潦倒之罪,編述一集,以告天下人:我之罪固不免,然閨閣中本自歴歴有人,万不可因我之不肖,自護己短,一并使其泯滅也.
[訳]ここに、自ら嘗て天の恩、祖先の徳を頼みに、華美な服装をし、美食三昧の日々(を送ったが)、父母兄弟の教育の恩に背き、師や友人の忠告に背き、今日に至るも一技も成せず、やがて落ちぶれた罪を、一冊の本にまとめ、天下の人々に告げるものである。私の罪は固より免れないが、閨房には一人一人りっぱな女性がいたのであり、私が愚かで、自分の落ち度をかばったとしても、それといっしょに彼女たちの功績を消し去ってはならない。
● 紈絝 wan3ku4 絹のズボン。華美な服装のこと
● 飫 yu4 満腹になる
● 饜 yan4 満腹する
● 潦倒 liao2dao3 落ちぶれる
● 閨閣 gui1ge2 =閨房。女性の寝室
● 歴歴 li4li4 一つ一つはっきりと
● 不肖 bu4xiao4 不肖。愚か
● 泯滅 min3mie4 消えてなくなる
”
かなり持って回った言い方で、しかも難しい言葉がいろいろ出てくるが、上の注を参考にすればいい。最後の
万不可因我之不肖,自護己短,一并使其泯滅也.
<万不可>が<決して(しては)ならない>になる。
”
雖今日之茅椽蓬牖,瓦灶縄床,其晨夕風露,階柳庭花,亦未有妨我之襟懐筆墨者.雖我未学,下筆無文,又何妨用假語村言,敷演出一段故事来,亦可使閨閣昭伝,復可悦世之目,破人愁悶,不亦宜乎?"故曰"賈雨村"云云.
[訳]今日のあばらや、侘び住まいも、朝夕は涼しい風も吹き露の潤いもあり、庭には草花が茂っているが、かといって私の胸中の思いを書きだすのを妨げるものではない。私は学問も無く、筆を取っても何も書けないが、野卑なことばで、物語を語るのを妨げはしない。閨房のことをあからさまに伝え、世間の目を悦ばせ、人の憂いを慰めるのも、良いではないか。それゆえ「賈雨村」云々と言うのである。
● 茅椽蓬牖 mao2chuan2peng2you3 カヤの垂木とヨモギの窓。あばらやを表す
● 瓦灶縄床 wa3zao4sheng2chuang2 素焼きの竈に縄のベッド(ハンモック)。貧しい住まいを表す
● 襟懐 jin1huai2 胸中
● 假語村言 jia3yu3cun1yan2 うそや野卑なことば (假語村:発音は<賈雨村>になる。
● 敷演 fu1yan3 敷衍する。わかりやすく説明する
● 昭 zhao1 あからさまに
”
雖今日之茅椽蓬牖,瓦灶縄床,其晨夕風露,階柳庭花,亦未有妨我之襟懐筆墨者.
<今日のあばらや、侘び住まいも、朝夕は涼しい風も吹き露の潤いもあり、庭には草花が茂っているが、かといって私の胸中の思いを書きだすのを妨げるものではない。>
の部分は前後のつながりが悪い。
この箇所<中國哲學書電子化計劃>では
所以蓬牖茅椽,繩床瓦灶,並不足妨我襟懷。況那晨風夕月,階柳庭花,更覺得潤人筆墨。
況= [kuàng] , 況且[kuàng qiě] besides, moreover
あばらや、侘び住まいだが私の胸中の思いを書きだすのを妨げるものではない。さらには朝には涼しい風があり、夕には月がある。階段のそばには柳があり庭には草花がある。筆を進めさせるものだ。
<階柳庭花>は中国流の言い方で<庭には柳があり、階段のそばには草花がある>でもいい。さらには<階段のそばや庭には柳や草花ある>でもいい。さらには察しのいい人は<花柳界>とみるだろう。前半の<晨風夕月>も同じで<朝の風、夕の月>でもいいが<風月>にはやはり<花柳界>の意味がある。<風俗>は日本語でもその手の意味がある。日本で花鳥風月、菓子屋の風月堂でなじみがあり<花柳界>とは結びつかない。
”
雖我未学,下筆無文,又何妨用假語村言,敷演出一段故事来,亦可使閨閣昭伝,復可悦世之目,破人愁悶,不亦宜乎?"故曰"賈雨村"云云.
[訳]:私は学問も無く、筆を取っても何も書けないが、野卑なことばで、物語を語るのを妨げはしない。閨房のことをあからさまに伝え、世間の目を悦ばせ、人の憂いを慰めるのも、良いではないか。それゆえ「賈雨村」云々と言うのである。
”
不亦宜乎=良いではないか。<亦>を加えて漢文調にすれば<これまたよからずや>。<世間の目(人の目)を悦ばせ、人の憂いを慰めるのも、良いではないか>は紅楼夢の本質と言える。このように読めば作者がよろこぶことになる。
“
此回中凡用“夢”用“幻”等字,是提醒閲者眼目,亦是此書立意本旨. 列位看官:你道此書従何而来?説起根由雖近荒唐,細按則深有趣味.待在下将此来歴注明,方使閲者了然不惑.
[訳]今回、よく「夢」や「幻」の字を用いるのは、読者に注意を促しており、これもこの本の着想の本旨である。お聴きの皆さん、この本はどこから来たとお考えか。根本を説けば荒唐無稽に近いが、細かく見れば深く味わいがある。以下にこの来歴に注釈を加えれば、読者の皆さんにもよくわかり、戸惑うことがないだろう。
● 看官 kan4guan1 お聴きの皆さん
<中國哲學書電子化計劃>の方は
更於篇中間用「夢」「幻」等字,卻是此書本旨,兼寓提醒閱者之意。
と簡潔。
sptt注
<此回中凡用“夢”用“幻”等字,是提醒閲者眼目(今回、よく「夢」や「幻」の字を用いるのは、読者に注意を促しており)>からは作者が慎重に言葉を選んでいることがうかがわれる。さらには<説起根由雖近荒唐,細按則深有趣味(根本を説けば荒唐無稽に近いが、細かく見れば深く味わいがある>も紅楼夢の本質と言える。
ーーーーー
<中國哲學書電子化計劃>
卻說那女媧氏煉石補天之時,於大荒山無稽崖煉成高十二丈、見方二十四丈大的頑石三萬六千五百零一塊。那媧皇只用了三萬六千五百塊,單單剩下一塊未用,棄在青埂峰下。誰知此石自經鍛煉之後,靈性已通,自去自來,可大可小。因見眾石俱得補天,獨自己無才,不得入選,遂自怨自愧,日夜悲哀。
”
原来女媧氏煉石補天之時,于大荒山無稽崖煉成高十二丈,見方二十四丈頑石三万六千五百零一塊.媧皇氏只用了三万六千五百塊,只単単剩了一塊未用,便棄在此山青梗峰下.誰知此石自経鍛錬之后,霊性已通,因見衆石俱得補天,独自己無材不堪入選,遂自怨自嘆,日夜悲号慚愧.
[訳]もともと女媧氏が石を鍛練し天を繕った時、大荒山無稽崖で高さ十二丈、四方が二十四丈の石ころ三万六千五百と一個を鍛練した。媧媧氏は三万六千五百個だけ用い、ただ一個だけ使わずに残し、この山の青梗峰の下に棄て置いたが、誰知ろう、この石は自ら鍛練し、霊性已に通じ、多くの石が皆天を繕うのに用いられ、ただ自分だけが才能が無く選ばれなかったことから、自分を恨み嘆き悲しみ、日夜号泣し恥じていた。
● 女媧 nv3wa1 女媧。中国の伝説上の皇帝で、伏義の妹。人面蛇身
● 煉 lian4 鍛錬する
● 見方 jian4fang1 四方
● 頑石 wan2shi2 石ころ
“
ここも訳文がややおかしいのは原文の差によるか。
誰知此石自経鍛錬之后,霊性已通,因見衆石俱得補天,独自己無材不堪入選,遂自怨自嘆,日夜悲号慚愧.
誰知ろう、この石は自ら鍛練し、霊性已に通じ、多くの石が皆天を繕うのに用いられ、ただ自分だけが才能が無く選ばれなかったことから、自分を恨み嘆き悲しみ、日夜号泣し恥じていた。
<中國哲學書電子化計劃>は
誰知此石自經鍛煉之後,靈性已通,自去自來,可大可小。因見眾石俱得補天,獨自己無才,不得入選,遂自怨自愧,日夜悲哀。
で<自去自來,可大可小>が加えられている。<自由自在>と言った意味だ。<靈性已通>の意だ。上で
上で、通霊:一般的には 通靈(英語:Mediumship)
と説明したが、ここでは通霊は<霊性已通>で、妖術が使えるという意味に近い。ーーーーー
以下は<中國哲學書電子化計劃>と<紅楼夢を読む>では相当の違いがる。
<中國哲學書電子化計劃>
一日,正當嗟悼之際,俄見一僧一道,遠遠而來,生得骨格不凡,豐神迥異。來到這青埂峰下,席地坐談,見著這塊鮮瑩明潔的石頭,且又縮成扇墜一般,甚屬可愛。那僧托於掌上,笑道:「形體倒也是個靈物了,只是沒有實在的好處;須得再鐫上幾個字,使人人見了,便知你是件奇物,然後攜你到那昌明隆盛之邦、詩禮簪纓之族、花柳繁華之地、溫柔富貴之鄉那裡去走一遭。」石頭聽了大喜,因問:「不知可鐫何字?攜到何方?望乞明示。」那僧笑道:「你且莫問,日後自然明白。」說畢,便袖了,同那道人飄然而去,竟不知投向何方。
<紅楼夢を読む>の注に
嗟悼 jie1dao4 嘆き悲しむ
● 俄 e2 にわかに
● 骨骼 gu3ge2 骨格
● 豊神 feng1shen2 =豊采、豊姿: 風采。容姿
● 迥異 jiong3yi4 =迥別 大いに異なる
があり、これを利用すると
ある日、正に嘆き悲しんでいると、俄かに(仏教の)坊さんと道師(道教の道士)が遠くからやって来た。体つきが普通でなく、風采も他と異なり、青埂峰の下まで来て、石の横に座って話始めた。
見著這塊鮮瑩明潔的石頭,且又縮成扇墜一般,甚屬可愛。
見ると鮮やかできれいな小さな石があり、扇子の扇墜のようで、愛(め)ずるべきものであった。
扇墜
坊さんは小石を取り上げて手のひらに乗せ、笑いながら言った。<形は霊験がありそうだが、これと言って実用上いいところがない。石に上にいくつか文字を刻めば見栄えがして、お前(石)がよきものというのがすぐわかる。かくして
然後攜你到那昌明隆盛之邦、詩禮簪纓之族、花柳繁華之地、溫柔富貴之鄉那裡去走一遭。」
昌明隆盛之邦 ー 経済、文化が繁栄しているところ
詩禮簪纓之族 ー 族は<大家族>。指禮教;簪纓:比喻高官。講究禮教的高官顯宦
花柳繁華之地 (ここで<花柳>がでてくる)
溫柔富貴之鄉
の地へおまえを連れて行ってやろう>と言った。
石頭聽了大喜,因問:「不知可鐫何字?攜到何方?望乞明示。」那僧笑道:「你且莫問,日後自然明白。」說畢,便袖了,同那道人飄然而去,竟不知投向何方。
石はこれを聞いて喜び<どんな文字を彫り、どこへ行くのかもっとはっきり示してほしい>とたずねた。坊さん答えて曰く<問わずがよい、いずれわかる。>と言い終ると、
便袖了,同那道人飄然而去,竟不知投向何方。
とあるが、別の資料では <便袖了这石>となっており、明らかに石を服の袖の中に入れて、道士とともに行く方知れずに去っていった、となる。
その後話は、<不知過了幾世幾劫>で、相当の時間がたってからのことで石が<昌明隆盛之邦、詩禮簪纓之族、花柳繁華之地、溫柔富貴之鄉>へ行って戻ってきてからの話になる。
一方<紅楼夢を読む>の方は<つけ足し>がかなり多い。結局は<石を服の袖の中に入れて、道士とともに行く方知れずにさっていく>。訳文があるので、この部分をコピー、ペイストしておく。訳は表面的だ。
”
一日,正当嗟悼之際,俄見一僧一道遠遠而来,生得骨骼不凡,豊神迥異,説説笑笑来至峰下,坐于石辺高談快論.
[訳]ある日、正に嘆き悲しんでいると、俄かに(仏教の)坊さんと道師(道教の坊さん)が遠くからやって来た。体つきが普通でなく、風采も他と異なり、談笑しながら峰の下まで来て、石の横に座ると大いに弁舌を振るった。
● 嗟悼 jie1dao4 嘆き悲しむ
● 俄 e2 にわかに
● 骨骼 gu3ge2 骨格
● 豊神 feng1shen2 =豊采、豊姿: 風采。容姿
● 迥異 jiong3yi4 =迥別 大いに異なる
● 高談快論 gao1tan2kuai4lun4 =高談闊論: 大いに弁舌を振るう。大いに議論をする
先是説些雲山霧海神仙玄幻之事,后便説到紅塵中栄華富貴.
[訳]先ずは雲山霧海神仙玄幻の仙界の事を言い、その後は俗世間の栄華富貴の事に話が及んだ。
● 紅塵 hong2chen2 浮世。俗世間 sptt注<紅塵>は中国の歌謡曲、演歌でよくでてくる。
此石聴了,不覚打動凡心,也想要到人間去享一享這栄華富貴,但自恨粗蠢,不得已,便口吐人言,向那僧道説道:“大師,弟子蠢物,不能見礼了.
[訳]この石は聞いていたが、思わず俗念を動かし、人の世に行ってこの栄華富貴を味わいたいと思ったが、自分ががさつ者であるので、如何ともし難く、口から人のことばを吐き、その坊さんと道師に言った。「師匠、拙者はがさつ者ゆえ、お辞儀もできません。
● 凡心 fan2xin1 俗念
● 蠢物 chun3wu4 がさつ者
(不得已,便口吐人言,向那僧道説道:“大師,弟子蠢物,不能見礼了.
不得已:これは上に出てきた<無可奈何 どうしようもない>の意。<便>は一語だがいろいろな意味がある。ここは<そこで>といった意味だろう。<見礼>は<お辞儀もできません>でもいいが、もとの意味は<礼儀を行う>。
但自恨粗蠢,不得已,便口吐人言,向那僧道説道:“大師,弟子蠢物,不能見礼了.
は冗長だ。さらにまた <粗蠢>がでてくる。
適聞二位談那人世間栄耀繁華,心切慕之.弟子質雖粗蠢,性却稍通,况見二師仙形道体,定非凡品,必有補天済世之材,利物済人之.
[訳]ちょうどお二人が人の世の栄耀繁華をお話になるのを聞き、羨ましくてならなかったのです。拙者はがさつ者ですが、多少は霊に通じており、ましてやお二人は仙形道体で、普通の方ではないとお見受けしました。必ずや補天済世の人材であり、利物済人の徳をお持ちのはず。
仙形道体:尋常でない
利物済人: 濟人利物,發音為jì rén lì wù,指救助別人,對世事有益。
この箇所大して意味のない同じうような言葉を並べていて、冗長さが目立つ。 如蒙発一点慈心,携帯弟子得入紅塵,在那富貴場中,温柔郷里受享几年,自当永佩洪恩,万劫不忘也。”
[訳]もし多少のお慈悲を以て、拙者を浮世にお連れいただき、かの富貴の場で、ぬくぬくと何年か楽しむことができましたら、その大恩に永遠に敬服し、決して忘れるものではございません。
● 万劫不忘 wan4jie2bu4wang4 永遠に忘れない。
*仏教では、世界の生成から壊滅までの過程を「一劫」(ごう)という
佩洪
佩:心悦诚服:佩服。钦佩。敬佩。可佩洪:廣大、盛大的(洪水、おおみず)
二仙師聴听畢,斉憨笑道:“善哉,善哉!那紅塵中有却有些楽事,但不能永遠依恃,况又有‘美中不足,好事多魔’八个字緊相連属,瞬息間則又楽極悲生,人非物換,究竟是到頭一夢,万境帰空,倒不如不去的好。”
[訳]二人の仙師はそれを聞くと、けたけた笑って言った。「善哉,善哉!かの浮世には確かに楽しい事があるが、それを永遠に頼みとすることはできない。ましてや「美中不足、好事多魔」(玉に瑕なり、好事魔多し)の八文字と密接に繋がっていて、あっという間に楽が極まり悲が生まれる。人は物のように取り換えることができないので、結局のところ、夢の世界に達するか、万事空(くう)に帰するか。まあ行かぬ方がよいじゃろう。
● 憨笑 han1xiao4 ばか笑いをする。
● 依恃 yi1shi4 頼みとする
● 物換 wu4huan4 [参考]物換星移 事物が変化し星が移る→月日が移り変わり、世の中の様相が変化する
● 到頭 dao4tou2 ぎりぎりのところまでいく。極限に達する
<美中不足,好事多魔>も教訓的で俗っぽい。
人非物換 は<人は物のように換えることができないので>とあるが、これでは意味が通らない。<人非物換>を除くと
但不能永遠依恃,况又有‘美中不足,好事多魔’八个字緊相連属,瞬息間則又楽極悲生,究竟是到頭一夢,万境帰空
で<流転>、常無き変化を言っている。上の解説の中に
[参考]物換星移 事物が変化し星が移る→月日が移り変わり、世の中の様相が変化する
とある。ここは逆接的に人は物のように換わる、換えることができないが、それでも、結局のところ. . . ..
としたらどうか?
倒不如不去的好
<倒><だが、むしろ>
だが石ころはあきらめず、
這石凡心已熾,那里聴得進這話去,乃復苦求再四.二仙知不可強制,乃嘆道:“此亦静極慫級,無中生有之数也.既如此,我們便携你去受享受享,只是到不得意時,切莫后悔。“
[訳]この石の俗念は既に激しく、こう言っても言うことを聞かず、また頼むことしきり。二人の仙人はこれ以上強制できず、嘆いて言った。「これもまた静極まり慫となり、無に生ができる定めであろう。かくなる上は、おまえを連れて行って楽しむこととしよう。ただ、思うようにならなくとも、後悔するでないぞ。」
● 熾 chi4 盛んである。激しい
● 慫 song3 驚き恐れる
● 数 shu4 =天数:天の定め。運命
“此亦静極慫級,無中生有之数也.
も唐突で、理由づけとしてもいまいち。坊さんらしい言い方ではある。
石道:“自然,自然。”那僧又道:“若説你性霊,却又如此質蠢,并更無貴之処.如此也只好跕脚而已.也罷,我如今大施佛法助你助,待劫終之日,復還本質,以了此案.你道好否?”
[訳]石は言った。「当然ですとも。」その僧はまた言った。「もしおまえが霊に通じていると言っても、こんながさつ者で、それ以上優れたところが無いなら、こうして、びっこをひいているしかない。まあよかろう、私は今大いに仏法を施しおまえを助けたのだから、劫が終わるのを待って、根本に戻ったら、この件は終わりにしよう。それでよろしいかな。」
● 跕脚 dian3jiao3 びっこ(をひく)
● 也罷 ye3ba4 仕方がない。まあよかろう
こうして、びっこをひいているしかない。
の箇所がよくわからない。この場面の挿絵では道士は足が片方しかなく杖をついているのがある。<びっこをひいている(道士)>はまた出てて来る。
この箇所は<我如今大施佛法助你助、私は今大仏法を施しお前の希望をかなえてやるが><劫が終わって、元に戻ったら、この件は終わりにしよう>で意味が通る。
石頭聴了,感謝不尽.那僧便念咒書符,大展幻術,将一塊石登時変成一塊鮮明瑩潔的美玉,且又縮成扇墜大小的可佩可拿.
[訳]石はそれを聞くと、感謝に絶えなかった。その僧は念仏を唱え、幻術を施し、一個の石をたちまち透き通ってきれいな美玉に変え、大きさも扇子の柄に下げる飾りの大きさにまで小さくした。
● 登時 deng1shi2 たちどころに。たちまち
● 鮮明瑩潔 xian1ming2ying2jie2 透き通ってきれいな
● 扇墜 shan4zhui4 扇子の柄に下げる飾り (これは上で紹介した)
● 佩 pei4 ぶら下げる
那僧托于掌上,笑道:“形体倒也是个宝物了!還只没有,実在的好処,須得再鐫上数字,使人一見便知是奇物方妙.然后携你到那昌明隆盛之邦,詩礼簪纓之族,花柳繁華地,温柔富貴郷去安身楽業。”
[訳]その僧は石を手のひらに載せ、笑って言った。「形は確かに宝物になった。しかしまだ何もない。本当の良いところは、まだ数や字を彫りこまなければならない。ひと眼で珍しいものとわかってこそ妙である。それからおまえを連れてあの繁栄栄華を誇る都へ行き、教養のある美しく着飾った人々や、色街や繁華な場所、やさしく富貴を誇る人々の所に身を落ちつかせ、楽しませることとしよう。」
● 托于掌上 tuo1yu2zhang3shang4 手のひらに載せる
● 鐫 juan1 彫る
● 昌明 chang1ming2 政治や文化が盛んである。繁栄している
● 隆盛 long2sheng4 勢いが盛んである。繁盛する
● 簪 zan1 かんざし
● 纓 ying1 冠のひも。装飾した房がついている
● 花柳 hua1liu3 色街。歓楽街
<妙>は<絶妙>の意に近く誉め言葉である。
石頭聴了,喜不能禁,乃問:“不知賜了弟子那几件奇処,又不知携了弟子到何地方?望乞明示,使弟子不惑。”
[訳]石はそれを聞くと、嬉しくてたまらず、質問した。「私にどのような珍しいことを授けていただけるのですか。どこに連れて行ってくれるのですか。どうか明かして、私が戸惑わないようにしてくれませんか。」
那僧笑道:“你且莫問,日后自然明白的。”説着,便袖了這石,同那道人飄然而去,竟不知投棄何方何舍.
[訳]その僧は笑って言った。「聞くでない。そのうちわかることじゃ。」そう言うと、この石を袖の中にしまうと、道師といっしょに飄然と立ち去り、何処へ行ったか、遂にわからなかった。
● 袖 xiu4 袖の中に隠す
この最後の場面は上の<中國哲學書電子化計劃>で似たような場面がでてきた。
<紅楼夢を読む>の方は相当遠回りしてこの場面にたどり着いている。
ーーーーー
続く話はかなりの時間がたって石ころ(石頭)が人間界から元の場所(青埂峰)にもどってからの話になり、場面が変わっている。
<青埂峰》という名前も意味があるのだが、このような詮索をすると、きりがなくなりそうなので、省略。
<國哲學書電子化計劃>
又不知過了幾世幾劫,因有個空空道人訪道求仙,從這大荒山無稽崖青埂峰下經過,忽見一塊大石,上面字跡分明,編述歷歷。空空道人乃從頭一看,原來是無才補天,幻形入世,被那茫茫大士渺渺真人攜入紅塵,引登彼岸的一塊頑石。上面敘著墮落之鄉,投胎之處,以及家庭瑣事,閨閣閒情,詩詞謎語,倒還全備,只是朝代年紀失落無考。後面又有一偈云:
無才可去補蒼天,枉入紅塵若許年。此係身前身後事,請誰記去作奇傳?
場面が変わって空空道人という道士がでてくる。さらには茫茫大士、渺渺真人が出て来るが前回の話で<僧は . . . . . と、この石を袖の中にしまうと、道師といっしょに飄然と立ち去り>とあるのでこの僧と道師(道士)のこたとか?
紅楼夢 第一回 (その二)
后来,又不知過了几世几劫,因有个空空道人訪道求仙,忽従這大荒山無稽崖青梗峰下経過,忽見一大塊石上字迹分明,編述歴歴.空空道人乃従頭一看,原来就是無材補天,幻形入世,蒙茫茫大士,渺渺真人携入紅塵,歴尽離合悲歓炎凉世態的一段故事.后面又有一首偈云:
[訳]その後、何世何劫(ごう)過ぎたか知らないが、空空道人という人が道を求め仙人になる修業のため、偶然にこの大荒山無稽崖青梗峰の下を通り過ぎ、ふと大きな石の上の文字がはっきりと書かれており、お話がひとつひとつ述べられているのを見た。空空道人はそこで最初から一読したところ、才がなく天を繕うことができなかったが、形を変え人間社会に入り、茫茫大士、渺渺真人に連れられ浮世に入り、離合集散、悲しみや歓び、移ろいやすい人情を経験し尽くした物語であり、後に一首の偈(げ)が書かれ、それが言うには;
● 字迹 zi4ji4 筆跡。文字
● 茫茫 mang2mang2 広々として、果てしがない
● 渺茫 miao3mang2 渺茫(びょうぼう)とする。ぼんやりして、はっきりしないこと。
● 炎凉 yan2liang2 暑さと涼しさ→人情の移り変わりの激しさのたとえ。相手の地位などが変わるとすぐに態度を変えること
[例]人情冷暖,世態炎凉:人情は変わりやすく、世間は薄情なものだ
● 偈 ji4 偈(げ)。仏の教えを詩の形で述べたもの
(以下、偈の内容)
無材可去補蒼天,枉入紅塵若許年.
[訳]才無く蒼天を繕いにゆくことなく、いたずらに浮世に入ること若干年。
● 枉 wang3 むだに。いたずらに
<國哲學書電子化計劃>の方は簡潔で
”
空空道人看了一回,曉得這石頭有些來歷,遂向石頭說道:「石兄,你這一段故事,據你自己說來,有些趣味,故鐫寫在此,意欲問世傳奇。據我看來,第一件,無朝代年紀可考;第二件,並無大賢大忠理朝廷治風俗的善政,其中只不過幾個異樣女子,或情,或癡,或小才微善:我縱然抄去,也算不得一種奇書。」石頭果然答道:「我師何必太癡?我想歷來野史的朝代,無非假借漢唐的名色;莫如我這石頭所記,不借此套,只按自己的事體情理,反倒新鮮別致。況且那野史中,或訕謗君相,或貶人妻女,姦淫凶惡,不可勝數,更有一種風月筆墨,其淫穢污臭,最易壞人子弟。至於才子佳人等書,則又開口文君,滿篇子建,千部一腔,千人一面,且終不能不涉淫濫。在作者不過要寫出自己的兩首情詩艷賦來,故假捏出男女二人名姓,又必旁添一小人,撥亂其間,如戲中的小丑一般。更可厭者,『之乎者也』,非理即文,大不近情,自相矛盾。竟不如我這半世親見親聞的幾個女子,雖不敢說強似前代書中所有之人,但觀其事跡原委,亦可消愁破悶。至於幾首歪詩,也可以噴飯供酒。其間離合悲歡,興衰際遇,俱是按跡循蹤,不敢稍加穿鑿,至失其真。只願世人當那醉餘睡醒之時,或避事消愁之際,把此一玩,不但是洗舊翻新,卻也省了些壽命筋力,不更去謀虛逐妄了。我師意為如何?」
空空道人聽如此說,思忖半晌,將這《石頭記》再檢閱一遍。因見上面大旨不過談情,亦只是實錄其事,絕無傷時誨淫之病,方從頭至尾抄寫回來,問世傳奇。從此,空空道人因空見色,由色生情,傳情入色,自色悟空,遂改名情僧,改《石頭記》為《情僧錄》。東魯孔梅溪題曰《風月寶鑑》。後因曹雪芹於悼紅軒中披閱十載,增刪五次,纂成目錄,分出章回,又題曰《金陵十二釵》,並題一絕。--即此便是《石頭記》的緣起。詩云:
滿紙荒唐言,一把辛酸淚。都云作者癡,誰解其中味?
(sptt 注)
この箇所も作者(曹雪芹)の主張で、対話の形で、これまでの読み物とどう違うかをしつこく述べている。
空空道人: 石兄,你這一段故事,據你自己說來,有些趣味,故鐫寫在此,意欲問世傳奇。據我看來,第一件,無朝代年紀可考;第二件,並無大賢大忠理朝廷治風俗的善政,其中只不過幾個異樣女子,或情,或癡,或小才微善:我縱然抄去,也算不得一種奇書。
石さん、この話は、私から言わせてもらえば、趣があり、だからこうして彫ってあるのでしょうが、世間に問うてみたらいい。しかし、私の見るところでは、第一に年代がわからない。二番目に賢人や忠臣、朝廷の善政が欠けている。書かれているのは様々な女性や、彼女らの感情や癡態、大したことのない才能や善行だけだ。
癡=痴
縱然:假使,即使,盡管,縱使 (xxとしても)抄去: 書き写す
算不得: 確かでない
石頭:我師何必太癡?我想歷來野史的朝代,無非假借漢唐的名色;莫如我這石頭所記,不借此套,只按自己的事體情理,反倒新鮮別致。況且那野史中,或訕謗君相,或貶人妻女,姦淫凶惡,不可勝數,更有一種風月筆墨,其淫穢污臭,最易壞人子弟。至於才子佳人等書,則又開口文君,滿篇子建,千部一腔,千人一面,且終不能不涉淫濫。在作者不過要寫出自己的兩首情詩艷賦來,故假捏出男女二人名姓,又必旁添一小人,撥亂其間,如戲中的小丑一般。更可厭者,『之乎者也』,非理即文,大不近情,自相矛盾。竟不如我這半世親見親聞的幾個女子,雖不敢說強似前代書中所有之人,但觀其事跡原委,亦可消愁破悶。至於幾首歪詩,也可以噴飯供酒。其間離合悲歡,興衰際遇,俱是按跡循蹤,不敢稍加穿鑿,至失其真。只願世人當那醉餘睡醒之時,或避事消愁之際,把此一玩,不但是洗舊翻新,卻也省了些壽命筋力,不更去謀虛逐妄了。我師意為如何?」
算不得: 確かでない
空空道人さん。何をバカなことをおっしゃるのですか?<野史>ついて言えば漢や唐の美女を借りることはありません。私はこの石頭が記するところを信じるもので、借り物はしません。自分が経験したこと、自分が感じ考えたことにしたがって書けば、むしろ新鮮味があります。なおかつ、これまでの野史の中では,<或訕謗君相,或貶人妻女,姦淫凶惡,不可勝數,更有一種風月筆墨,其淫穢污臭,最易壞人子弟。>(この箇所は<紅楼夢を読む>と同じで、訳文は
[訳](これまでの野史は)君主の悪口を言ったり、人妻をけなしたり、みだらで凶悪なものは、数えきれないほど多い。さらにある種の色ごとの文章は、みだらで汚らわしく、有害な文章で、若者に悪い影響を与えるものも、数えきれない程多い。
何必:為什麼一定要。反問語氣,表示不必、不需要。反語で<何の必要があろうか?>
名色:ここは<美女>でいいだろう。
莫如=不如:xxにしかず
訕謗君相:上記参照
貶人妻女:上記参照
姦淫凶惡:上記参照
不可勝數:数えきれない。
至於才子佳人等書,則又開口文君,滿篇子建,千部一腔,千人一面,且終不能不涉淫濫。在作者不過要寫出自己的兩首情詩艷賦來,故假捏出男女二人名姓,又必旁添一小人,撥亂其間,如戲中的小丑一般。
一方<紅楼夢を読む>の方はかなり長く、つけ足しが多い。
紅楼夢 第一回 (その二)続き石頭笑答道:“我師何太痴耶!若云無朝代可考,今我師竟假借漢唐等年紀添綴,又有何難?但我想,歴来野史,皆蹈一轍,莫如我這不借此套者,反倒新奇別致,不過只取其事体情理罷了,又何必拘拘于朝代年紀哉!
[訳]石は笑って言った・「わが師はなんとばかなことをおっしゃるのか。もしいつの時代のことかわからないとおっしゃるなら、先生が仮に漢や唐の年代をつけて文を綴ることは、別に難しくもござりますまい。けれど私が思いますに、これまで野史(私撰の歴史書)は皆同じ過ちを犯しており、私は同じ轍を踏まないよう、また却って変わっていて気が利いており、事の事情と情理を言っているだけなので、どうして王朝や年代にこだわる必要があるだろう。
● 蹈一轍 [類]重蹈覆轍 chong2dao3fu4zhe2 覆轍(ふくてつ)を踏む。同じ過ちを繰り返す
● 別致 bie2zhi4 奇抜である。ちょっと気が利いていて趣がある
若云無朝代可考,今我師竟假借漢唐等年紀添綴,又有何難?
は文字通りでは
もしいつの時代のことかわからないとおっしゃるなら、今先生が仮に漢や唐の年代をつけて文を綴ることは、別に難しくもござりますまい。
竟 (jìng)で多義語で、ここでは訳されていない。
- 終了,完畢:繼承先烈未~的事業。
- 到底,終於:畢~。有志者事~成。
- 整,從頭到尾:~日。~夜。
- 居然,表示出乎意料:~然。~至(竟然至於)。~自(竟然)。
| adj. | throughout; whole |
| adv. | finally; actually; really; eventually; unexpectedly |
| idiom | after all; in the end |
| n. | the end |
| v. | finish; complete |
究竟:<結局のところ>の意でよく聞く。
再者,市井俗人喜看理治之書者甚少,愛適趣閑文者特多.歴来野史,或訕謗君相,或貶人妻女,奸淫凶悪,不可勝数.更有一種風月筆墨,其淫穢汚臭,屠毒筆墨,壊人子弟,又不可勝数.至若佳人才子等書,則又千部共出一套,且其中終不能不渉于淫濫,以致満紙潘安,子建,西子,文君,不過作者要写出自己的那両首情詩艶賦来,故假擬出男女二人名姓,又必旁出一小人其間撥乱,亦如劇中之小丑然.
[訳]また、市井の俗人で理治の書を読むのが好きな者はごく少なく、手慰みの文章を好む者は多く、これまでの野史は君主の悪口を言ったり、人妻をけなしたり、みだらで凶悪なものは、数えきれないほど多い。さらにある種の色ごとの文章は、みだらで汚らわしく、有害な文章で、若者に悪い影響を与えるものも、数えきれない程多い。佳人才子等の書は、皆同じような調子であり、その中で遂にはみだらな行いにかかわらざるを得ず、紙面中が潘安、子建、西子、文君といったお決まりの人物の話となり、作者は自分の情詩艶賦を書いては、仮に男女二人の名前になぞらえ、また傍からは小人が間に入って来て、劇中の道化のような役回りをすることになるのである。
● 訕謗 shan4bang4 皮肉を言い、悪口を言う
● 奸淫 jian1yin2 みだらな
● 不可勝数 bu4ke3sheng4shu4 数えきれない
● 淫穢 yin2hui4 淫猥である。みだらである
● 千部共出一套 qian1bu4gong4chu1yi1tao4 =千部一腔 qian1bu4yi4qiang1 皆同じ調子である
● 淫濫yin2lan4 みだらな行いであふれる
● 潘安 潘岳。西晋時代の文学家。一般に中国第一の美男子として知られ、,「貌若潘安」というのは、中国人の男性の容姿への最高の褒め言葉。
● 子建 曹植。三国時代の魏の人で、曹操の妻・卞氏が生んだ第三子。詩才があったが、兄・曹丕に疎まれ、罪に落され殺害された。
● 西子 西施のこと。西施、王昭君、貂蝉、楊玉環は中国古代の四大美人と呼ばれ、西施はその第一で、美人の代名詞。
● 文君 卓文君。前漢時代の才女。富豪・卓王孫の娘で、文人・司馬相如と駆け落ちをした。後、相如の心変わりを怒って《白頭吟》を作った。
● 艶賦 yan4fu4 なまめかしい賦(詩)
● 抜 bo1 こじ入れる
● 小丑 xiao3chou3 道化
且鬟婢開口即者也之乎,非文即理.故逐一看去,悉皆自相矛盾,大不近情理之話,竟不如我半世親睹親聞的這几个女子,雖不敢説強似前代書中所有之人,但事迹原委,亦可以消愁破悶,也有几首歪詩熟話,可以噴飯供酒.
[訳]かつ女が口を開いてぶつぶつ言うのは、文でなければ理であり、ひとつひとつ見ていくと、皆相矛盾しており、たかだか情理の話に過ぎず、私がこの半生で自ら見聞きした数人の女性にも及ばない。前の時代の書物の中の人物よりましだとはよう言わないが、事跡や事の顛末は、憂いを消しうさを晴らすことができ、またたわむれに書いた詩やよく知られた話もあり、おかしくて吹き出したり酒の肴にすることができるのである。
● 鬟 huan2 婦人の結い髪
● 婢 bi4 はしため。下女
● 大不近 da4bu4jin4 =大不了
● 半世 ban4shi4 半生
● 強似 qiang2si4 ~よりましである
● 原委 yuan2wei3 事の顛末
● 歪詩 wai1shi1 たわむれに書いた詩
● 噴飯 pen4fan4 (むせて口の中のご飯を吹き出す)吹き出す。失笑する
sptt注
この部分は難しい。
<かつ女が口を開いてぶつぶつ言うのは、文でなければ理であり、ひとつひとつ見ていくと、皆相矛盾しており、たかだか情理の話に過ぎず>の部分は原文からかなりずれている。
非文即理:<文でなければ理であり>ではよくわからない。<理>は<情理>、<人情道理>のことか?
大不近情理之話:<たかだか情理の話に過ぎず>もおかしい。
つまりは<文章と言えるものではなく、 <人情道理>について書いているのだが、これまた本当の<人情道理>からは程遠い内容だ。
と言ったところか。そのあともかなり持って回った言い方だ。
者也之乎:汉语成语,拼音是zhě yě zhī hū,意思为指讲话或写文章咬文嚼字。含讽刺意。出自《荐福碑》
不近情理:不合乎人情道理。
咬文嚼字:漢語成語,拼音是yǎowén-jiáozì,意思是在詞句上斟酌推敲,形容過分地斟酌字句,多指死摳字眼而不注意精神實質;也諷刺那些講話時愛賣弄自己學識的人。也作咬文齧字。出自元·無名氏《殺狗勸夫》。也用來指對文字的使用反覆推敲,十分講究。
至若離合悲歓,興衰際遇,則又追踪躡迹,不敢稍加穿鑿,徒為供人之目而反失其真伝者.今之人,貧者日為衣食所累,富者又懐不足之心,縦然一時稍閑,又有貪淫恋色,好貨尋愁之事,那里去有工夫看那理治之書?所以我這一段故事,也不愿世人称奇道妙,也不定要世人喜悦検読,只願他們当那醉淫飽卧之時,或避世去愁之際,把此一玩,豈不省了些寿命筋力?
[訳]離合集散、悲喜こもごも、興隆衰退のめぐりあわせの如きは、事跡を追求し、敢えて多少のこじつけをするようなことはせず、ただ人の目に供すると、却ってその真意を伝えることができない。今の人は、貧しきは日々衣食の蓄積を思い、富める者も懐の不足を思い、たとえ一時のちょっとした暇にも、淫らなことや色恋沙汰を追い求め、良い品物の事を心配しており、どこに時間があってどのような理治の書を読むというのだろうか。したがって私のこの物語では、世人に珍しいことや不思議なことを説こうとは思わず、必ずしも世人に喜んで読んでもらおうとは思わず、ただ人々が酒を過ごし満腹で横になった時に、或いは世間を避けて憂いを晴らす際に、これをご覧いただけば、寿命を延ばし、緊張を緩めないことがありましょうか。
● 際遇 ji4yu4 (主としてよい)めぐりあわせ
● 追踪躡迹 zhui1zong1nie4ji4 =按迹循踪 事跡に基づく
● 穿鑿 chuan1zao2 こじつける
● 縦然 zong4ran2 たとえ~としても
このあたりも作者の言い分(文学論)だが、むずかしい。
至若離合悲歓,興衰際遇,則又追踪躡迹,不敢稍加穿鑿,徒為供人之目而反失其真伝者
(sptt 注)
至若:xxについていえば則:一語だがこれまたいろいろな意味がある。
穿鑿:<こじつけ>というよりは<こじ開ける>、<隅々まで詳しく明らかにする>
したがって
ここは
離合集散、悲喜こもごも、興隆衰退のめぐりあわせの如きは、事跡を追求して、隅々まで詳しく明らかにせずにただ人の目に供すると、その真意を伝えることができない。
となる。
今之人,貧者日為衣食所累,富者又懐不足之心,縦然一時稍閑,又有貪淫恋色,好貨尋愁之事,那里去有工夫看那理治之書?
今の人は、貧しきは日々衣食の蓄積を思い、富める者も懐の不足を思い、たとえ一時のちょっとした暇にも、淫らなことや色恋沙汰を追い求め、良い品物の事を心配しており、どこに時間があってどのような理治の書を読むというのだろうか。
あるサイトではこの箇所を曹雪芹の名言としている。
”
读完这段语录,就让人感到写的很现实,写出了现代穷人和富人的区别,特别是尾句,让人感到叹息,富人没有工夫去看治理之书,难道穷人会去看吗?(後略)
”
豈不省了些寿命筋力?
が
<寿命を延ばし、緊張を緩めないことがありましょうか。>となっているが、<省>は<省く>の意味もあるが、英語の to save の意味もある(いたずらな、ムダな消耗、消費を減らす)文字どおりでは
寿命筋力(寿命や体力)をいたずらに擦り減らさないとことになるでしょう。
就比那謀虚逐妄,却也省了口舌是非之害,腿脚奔忙之苦.再者,亦令世人換新眼目,不比那些胡牽乱扯,忽離忽遇,満紙才人淑女,子建文君紅娘小玉等通共熟套之旧稿.我師意為何如?”
[訳]かのうそ偽りの追及に比べれば、ことばから起こるいざこざや、それにより忙しく走り回る苦しみを省くことができます。また、世人の目先を換えることは、あのでたらめにこじつけ、離合集散し、どの頁も才人淑女、子建、文君、紅娘、小玉といった誰でも知っている陳腐な話とは比べものにならないでしょう。我が師のご意見は如何でありましょう。
● 謀虚逐妄 mou3xu1zhu2wang4 うそ偽りを求める
● 口舌是非 kou3she2shi4fei1 おしゃべりから起こるいざこざ
● 腿脚奔忙 tui3jiao3ben1mane2 忙しく走り回る。東奔西走する
● 紅娘 《西廂記》に登場する主要人物の一人で、聡明な侍女
子建(曹植)、文君(卓文君)は上で出てきた。小玉は<霍小玉,唐代传奇小说《霍小玉传》女主角>。小玉を紅楼夢の登場人物になぞらえた<紅学>もあるが省略。
紅楼夢 第一回 (その二)続き(<その二>の終わりの部分
空空道人聴如此説,思忖半晌,将《石頭記》再検閲一遍,因見上面雖有些指奸責佞貶悪誅邪之語,亦非傷時罵世之旨,及至君仁臣良父慈子孝,凡倫常所関之処,皆是称功頌,眷眷无窮,実非別書之可比.雖其中大旨談情,亦不過実録其事,又非假擬妄称,一味淫邀艶約,私訂偸盟之可比.因毫不干渉時世,方従頭至尾抄録回来,問世伝奇.従此空空道人因空見色,由色生情,伝情入色,自色悟空,遂易名為情僧,改《石頭記》為《情僧録》.東魯孔梅溪則題曰《風月宝鑑》.后因曹雪芹于悼紅軒中披閲十載,増刪五次,纂成目録,分出章回,則題曰《金陵十二釵》.并題一絶云:
[訳]空空道人はこれを聞くと、しばらく思案していたが、《石頭記》をもう一度検討しつつ読み進めた。内容には悪賢い立ち回りのうまい者を責め、悪を貶め邪を懲らしめる言葉があるが、時世を批判するような趣旨ではないし、君子の仁、家臣の良、父の慈しみ、子の孝に至っては、凡そ人倫の道の関わる処であり、皆功や徳を誉め称え、深い思いやりの気持ちは、他の書の比ではない。その中には大いに愛情を語っているところがあるが、その事実を記録しているに過ぎず、想像をたくましくして、ひたすら淫らなことを追い求め、色ごとを誘い、人目を盗んで契を結ぶものとは比べられない。少しも時世を干渉するものでないので、最初から終わりまで書き写し、世にこの伝奇を問うことにした。これより空空道人は空により色を見、色により情を生じ、情を伝って色に入り、色より空を悟り、遂に名を改め情僧とし、《石頭記》を改め《情僧録》とした。東魯の孔梅溪は《風月宝鑑》と題した。後に曹雪芹が悼紅軒に於いて書をひも解くこと十年、添削すること五度、目録を編纂し、章回に分け、《金陵十二釵》と題した。さらに一絶を題して云うには:
● 思忖 si1cun4 思案する
● 半晌 ban4shang3 やや久しく
● 検閲 jian3yue4 検討しつつ読む
● 奸佞 jian1ning4 卑屈でごますりをする(人)
● 倫常 lun2chang2 人倫の道
● 眷眷 juan4juan4 懇ろに思う。深く思いやる
● 一味 yi1wei4 ひたする。一途に
● 披閲 pi1yue4 =披覧:書籍を開けてみる
● 増刪 zeng1shan1 添削する
● 纂 zuan3 編纂する
この部分の日本語訳も曹雪芹の文学論としてはインパクトが弱い。
内容には悪賢く立ち回りのうまい者を責め、悪を貶め邪を懲らしめる言葉があるが、時世を批判するような趣旨ではないし、君子の仁、家臣の良、父の慈しみ、子の孝に至っては、凡そ人倫の道の関わる処であり、皆功や徳を誉め称え、深い思いやりの気持ちは、他の書と比べるところがない。その中には大いに愛情を語っているところがあるが、その事実を記録しているに過ぎず、想像をたくましくして、ひたすら淫らなことを追い求め、色ごとを誘い、人目を盗んで契を結ぶようなものではない。少しも時世を干渉するもの(今の世の批判か)でないので、最初から終わりまで書き写し、世にこの伝奇を問うことにした。
”
これより空空道人は空により色を見、色により情を生じ、情を伝って色に入り、色より空を悟り、遂に名を改め情僧とし、《石頭記》を改め《情僧録》とした。
”
ここはやや難しい。<色即是空>という言い方が日本でもある。
空->色->情->空
ということなのだが何のことだかわからない。これも<紅学>になりそうだが、単純な理解としては
Baide-Baike
“色空”观点是《红楼梦》悲剧意识的反映,在小说中贯穿始终。曹雪芹用“色空”观否定了世俗社会追求的一切东西,有其消沉的一面,但也折射出关于生命和宇宙的哲理思考。而贾宝玉“色空”的生命轮回历程
篆刻作品:因空见色,由色生情,传情入色,自色悟空
(生命)轮回历程ではある。
《石頭記》を改め《情僧録》とした。東魯の孔梅溪は《風月宝鑑》と題した。後に曹雪芹が悼紅軒に於いて書をひも解くこと十年、添削すること五度、目録を編纂し、章回に分け、《金陵十二釵》と題した。
< 紅楼夢>の書名は出てこない。
さらに一絶を題して云うには:
満紙荒唐言,一把辛酸涙! 都云作者痴,誰解其中味?
[訳]満紙 荒唐の言、一把 辛酸の涙。皆云う作者は痴なりと、誰か知るその中味を。
(文章全体、荒唐無稽の言葉で満ちている。辛酸の涙が溢れる。皆が作者は気が狂っていると言うが、この文の真の意味を理解している者は誰もいない)
出則既明,且看石上是何故事.按那石上書云:
[訳]文の出処は明らかになった。はてさて石の上にはどのような物語が書かれていたのか。石の上の書によれば
此系身前身后事,倩誰記去作奇伝?詩后便是此石墜落之郷,投胎之処,親自経歴的一段陳迹故事.其中家庭閨閣瑣事,以及閑情詩詞倒還全備,或可適趣解悶,然朝代年紀,地與邦国,却反失落無考.
[訳]これは我が身の前世のことを後に記したものだが、はて誰に頼んでこのような伝奇小説としたものだろう。詩の後が、この石が降り立った町、生まれ変わった所のことや、自ら経験した事跡の物語である。その中には家の閨房での些細な事や、なぐさみの詩が全て揃っており、或いは暇つぶしに適しているかもしれないが、いつの王朝のことか、年代や、場所、どこの国(地方)でのことか、その考察が抜け落ちていた。
● 倩 qian4 人に頼み。代わりに
● 投胎 tou2tai1 生まれる(人間が死後、その霊魂が母胎に入り、もう一度生まれる)
● 陳迹 chen2ji4 昔の事柄。過ぎ去った事柄。古い記憶
● 瑣事 suo3shi4 こまごまとした事
空空道人遂向石頭説道:“石兄,你這一段故事,据你自己説有些趣味,故編写在此,意欲問世伝奇.据我看来,第一件,無朝代年紀可考,第二件,并無大賢大忠理朝廷治風俗的善政,其中只不過几个異様女子,或情或痴,或小才微善,亦無班姑,蔡女之能.我縦抄去,恐世人不愛看呢。”
[訳]
空空道人はそこで石に言うには、「石さん、この物語は、あなたが言うにはおもしろいので、ここに書き記し、伝奇小説として世に問いたいとのことですが、私が見たところ、第一に、いつの王朝のことか年代が考察できません。第二に、大賢大忠が朝廷を管理し風俗を治める善政をしたことが書かれておらず、ただ何人かの変わった女性の痴情のこと、或いは小才微善のことしか書かれておらず、班姑、蔡女のような徳のある人のことも書かれていません。私はよしんばこのまま書き写して世に問うても、世間の人々が読んでくれないのではないかと思いますが。」
● 班姑、蔡女 二人の歴史上の才女。班姑:班昭のこと。後漢の人で、兄、班固は歴史書《漢書》を著した。班姑は後漢の宮中に出入りし、皇后や女官達に書を教え、女性に対する教育書、《女戒》を著した。 蔡女:蔡文姫。後漢末~三国時代の人。本名は蔡琰。琴の名手。父親の蔡邕は曹操の親友である。23歳の時、匈奴に拉致され、左賢王・納の王妃にされ、南匈奴に居ること12年。このことを知った曹操が建安十三年(208年)に使者を派遣し、黄金千両、白壁一双で以て魏に連れ戻した。その後、董祀の妻となり、娘は晋の司馬懿の息子の司馬師の妻となった。
石頭笑答道:“我師何太痴耶!若云無朝代可考,今我師竟假借漢唐等年紀添綴,又有何難?但我想,歴来野史,皆蹈一轍,莫如我這不借此套者,反倒新奇別致,不過只取其事体情理罷了,又何必拘拘于朝代年紀哉!
[訳]石は笑って言った・「わが師はなんとばかなことをおっしゃるのか。もしいつの時代のことかわからないとおっしゃるなら、今(先生が)仮に漢や唐の年代をつけて文を綴ることは、別に難しくもござりますまい。けれど私が思いますに、これまで野史(私撰の歴史書)は皆同じ過ちを犯しており、私は同じ轍を踏まないよう、また却って変わっていて気が利いており、事の事情と情理を言っているだけなので、どうして王朝や年代にこだわる必要があるだろう。
● 蹈一轍 [類]重蹈覆轍 chong2dao3fu4zhe2 覆轍(ふくてつ)を踏む。同じ過ちを繰り返す
● 別致 bie2zhi4 奇抜である。ちょっと気が利いていて趣がある
再者,市井俗人喜看理治之書者甚少,愛適趣閑文者特多.歴来野史,或訕謗君相,或貶人妻女,奸淫凶悪,不可勝数.更有一種風月筆墨,其淫穢汚臭,屠毒筆墨,壊人子弟,又不可勝数.至若佳人才子等書,則又千部共出一套,且其中終不能不渉于淫濫,以致満紙潘安,子建,西子,文君,不過作者要写出自己的那両首情詩艶賦来,故假擬出男女二人名姓,又必旁出一小人其間撥乱,亦如劇中之小丑然.
[訳]また、市井の俗人で理治の書を読むのが好きな者はごく少なく、手慰みの文章を好む者は多く、これまでの野史は君主の悪口を言ったり、人妻をけなしたり、みだらで凶悪なものは、数えきれないほど多い。さらにある種の色ごとの文章は、みだらで汚らわしく、有害な文章で、若者に悪い影響を与えるものも、数えきれない程多い。佳人才子等の書は、皆同じような調子であり、その中で遂にはみだらな行いにかかわらざるを得ず、紙面中が潘安、子建、西子、文君といったお決まりの人物の話となり、作者は自分の情詩艶賦を書いては、仮に男女二人の名前になぞらえ、また傍からは小人が間に入って来て、劇中の道化のような役回りをすることになるのである。
● 訕謗 shan4bang4 皮肉を言い、悪口を言う
● 奸淫 jian1yin2 みだらな
● 不可勝数 bu4ke3sheng4shu4 数えきれない
● 淫穢 yin2hui4 淫猥である。みだらである
● 千部共出一套 qian1bu4gong4chu1yi1tao4 =千部一腔 qian1bu4yi4qiang1 皆同じ調子である
● 淫濫yin2lan4 みだらな行いであふれる
● 潘安 潘岳。西晋時代の文学家。一般に中国第一の美男子として知られ、,「貌若潘安」というのは、中国人の男性の容姿への最高の褒め言葉。
● 子建 曹植。三国時代の魏の人で、曹操の妻・卞氏が生んだ第三子。詩才があったが、兄・曹丕に疎まれ、罪に落され殺害された。
● 西子 西施のこと。西施、王昭君、貂蝉、楊玉環は中国古代の四大美人と呼ばれ、西施はその第一で、美人の代名詞。
● 文君 卓文君。前漢時代の才女。富豪・卓王孫の娘で、文人・司馬相如と駆け落ちをした。後、相如の心変わりを怒って《白頭吟》を作った。
● 艶賦 yan4fu4 なまめかしい賦(詩)
● 抜 bo1 こじ入れる
● 小丑 xiao3chou3 道化
且鬟婢開口即者也之乎,非文即理.故逐一看去,悉皆自相矛盾,大不近情理之話,竟不如我半世親睹親聞的這几个女子,雖不敢説強似前代書中所有之人,但事迹原委,亦可以消愁破悶,也有几首歪詩熟話,可以噴飯供酒.
[訳]かつ女が口を開いてぶつぶつ言うのは、文でなければ理であり、ひとつひとつ見ていくと、皆相矛盾しており、たかだか情理の話に過ぎず、私がこの半生で自ら見聞きした数人の女性にも及ばない。前の時代の書物の中の人物よりましだとはよう言わないが、事跡や事の顛末は、憂いを消しうさを晴らすことができ、またたわむれに書いた詩やよく知られた話もあり、おかしくて吹き出したり酒の肴にすることができるのである。
● 鬟 huan2 婦人の結い髪
● 婢 bi4 はしため。下女
● 大不近 da4bu4jin4 =大不了
● 半世 ban4shi4 半生
● 強似 qiang2si4 ~よりましである
● 原委 yuan2wei3 事の顛末
● 歪詩 wai1shi1 たわむれに書いた詩
● 噴飯 pen4fan4 (むせて口の中のご飯を吹き出す)吹き出す。失笑する
至若離合悲歓,興衰際遇,則又追踪躡迹,不敢稍加穿鑿,徒為供人之目而反失其真伝者.今之人,貧者日為衣食所累,富者又懐不足之心,縦然一時稍閑,又有貪淫恋色,好貨尋愁之事,那里去有工夫看那理治之書?所以我這一段故事,也不愿世人称奇道妙,也不定要世人喜悦検読,只願他們当那醉淫飽卧之時,或避世去愁之際,把此一玩,豈不省了些寿命筋力?
[訳]離合集散、悲喜こもごも、興隆衰退のめぐりあわせの如きは、事跡を追求し、敢えて多少のこじつけをするようなことはせず、ただ人の目に供すると、却ってその真意を伝えることができない。今の人は、貧しきは日々衣食の蓄積を思い、富める者も懐の不足を思い、たとえ一時のちょっとした暇にも、淫らなことや色恋沙汰を追い求め、良い品物の事を心配しており、どこに時間があってどのような理治の書を読むというのだろうか。したがって私のこの物語では、世人に珍しいことや不思議なことを説こうとは思わず、必ずしも世人に喜んで読んでもらおうとは思わず、ただ人々が酒を過ごし満腹で横になった時に、或いは世間を避けて憂いを晴らす際に、これをご覧いただけば、寿命を延ばし緊張を緩めないことがありましょうか。
● 際遇 ji4yu4 (主としてよい)めぐりあわせ
● 追踪躡迹 zhui1zong1nie4ji4 =按迹循踪 事跡に基づく
● 穿鑿 chuan1zao2 こじつける
● 縦然 zong4ran2 たとえ~としても
就比那謀虚逐妄,却也省了口舌是非之害,腿脚奔忙之苦.再者,亦令世人換新眼目,不比那些胡牽乱扯,忽離忽遇,満紙才人淑女,子建文君紅娘小玉等通共熟套之旧稿.我師意為何如?”
[訳]かのうそ偽りの追及に比べれば、ことばから起こるいざこざや、それにより忙しく走り回る苦しみを省くことができます。また、世人の目先を換えることは、あのでたらめにこじつけ、離合集散し、どの頁も才人淑女、子建、文君、紅娘、小玉といった誰でも知っている陳腐な話とは比べものにならないでしょう。我が師のご意見は如何でありましょう。
● 謀虚逐妄 mou3xu1zhu2wang4 うそ偽りを求める
● 口舌是非 kou3she2shi4fei1 おしゃべりから起こるいざこざ
● 腿脚奔忙 tui3jiao3ben1mane2 忙しく走り回る。東奔西走する
● 紅娘 《西廂記》に登場する主要人物の一人で、聡明な侍者
これに続いて
遂に名を改め情僧とし、《石頭記》を改め《情僧録》とした。東魯の孔梅溪は《風月宝鑑》と題した。後に曹雪芹が悼紅軒に於いて書をひも解くこと十年、添削すること五度、目録を編纂し、章回に分け、《金陵十二釵》と題した。
と続く。 紅楼夢の来歴が簡単に紹介されてという。ネットの簡単な解説では
《風月宝鑑》乃是雪芹作《紅樓夢》的初稿,有其弟棠村作序。此處不說曹棠 ... 我想,吳玉峯和孔梅溪都是雪芹化名,是沒有疑問的。
とある。<後に曹雪芹が悼紅軒に於いて書をひも解くこと十年、添削すること五度、目録を編纂し、章回に分け、(《金陵十二釵》と題した。)>は事実だろう。そうすると紅楼夢は長編だが、かなり洗練、精華された作品で、時間をかけてじっくり味わえる読み物ということのなる。《金陵十二釵》は悪くない。
この部分<國哲學書電子化計劃>の方は。上でも取り上げたが空空道人聽如此說,思忖半晌,將這《石頭記》再檢閱一遍。因見上面大旨不過談情,亦只是實錄其事,絕無傷時誨淫之病,方從頭至尾抄寫回來,問世傳奇。從此,空空道人因空見色,由色生情,傳情入色,自色悟空,遂改名情僧,改《石頭記》為《情僧錄》。東魯孔梅溪題曰《風月寶鑑》。後因曹雪芹於悼紅軒中披閱十載,增刪五次,纂成目錄,分出章回,又題曰《金陵十二釵》,並題一絕。--即此便是《石頭記》的緣起。詩云:
滿紙荒唐言,一把辛酸淚。都云作者癡,誰解其中味?
とこれまた簡潔。
これより話の舞台は下界に降り、様々な登場人物が出てくることになります。ここから先は、次回に見ていきましょう。 <紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回 (その三)
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<國哲學書電子化計劃>
《石頭記》緣起既明,正不知那石頭上面記著何人何事?看官請聽:
按那石頭上書云:當日地陷東南,這東南有個姑蘇城,城中閶門,最是紅塵中一二等富貴風流之地。這閶門外有個十里街,街內有個仁清巷,巷內有個古廟,因地方狹窄,人皆呼作「葫蘆廟」。廟旁住著一家鄉宦,姓甄,名費,字士隱,嫡妻封氏。性情賢淑,深明禮義。家中雖不甚富貴,然本地也推他為望族了。因這甄士隱稟性恬淡,不以功名為念,每日只以觀花種竹、酌酒吟詩為樂,倒是神仙一流人物。只是一件不足:年過半百,膝下無兒,只有一女,乳名英蓮,年方三歲。
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回 (その三)
当日地陷東南,這東南一隅有処曰姑蘇,有城曰閶門者,最是紅塵中一二等富貴風流之地.這閶門外有個十里街,街内有個仁清巷,巷内有個古廟,因地方窄狭,人皆呼作葫芦廟.廟旁住着一家郷宦,姓甄,名費,字士隠.嫡妻封氏,情性賢淑,深明礼義.家中雖不甚富貴,然本地便也推他為望族了.因這甄士隠禀性恬淡,不以功名為念,毎日只以観花修竹,酌酒吟詩為楽,倒是神仙一流人品.只是一件不足:如今年已半百,膝下無儿,只有一女,乳名喚作英蓮,年方三歳.
[訳]そのころ、地は東南に窪み、この東南の片隅に姑蘇と呼ばれるところがあり、閶門と呼ばれる城門があり、浮世でも一二の富貴風流の地であった。この閶門外に十里街という通りがあり、通りに仁清巷という路地があり、路地には古い廟宇があり、狭い場所なので、人は皆ひょうたん廟と呼んでいた。廟の傍に田舎役人が住んでいて、姓は甄、名は費、字(あざな)は士隠と言った。正妻は封氏と言い、善良でやさしく、礼儀をわきまえていた。家はさして富貴ではないが、当地では彼を名望ある家柄と見做していた。この甄士隠は生まれつきあっさりしていて無欲で、功名を上げようという気もなく、毎日ただ花を眺め竹の手入れをし、酒を汲んでは詩を吟じることを楽しみとし、あくせくせず悠々自適な人物であった。ただひとつ物足りないのは、今年既に五十になるのに、男の子がおらず、娘が一人だけおり、乳名を英蓮と言い、年はやっと三歳であった。
● 郷宦 xiang1huan4 田舎の役人
● 嫡妻 di2qi1 正妻
● 賢淑 xian2shu1 =賢惠:善良でやさしい婦人
● 望族 wang4zu2 名望ある家柄
● 禀性 bing3xing4 生まれつき
● 恬淡 tian2dan4 あっさりしていて無欲である
● 酌酒 zhuo2jiu3 酒を注ぐ
● 吟詩 yin2shi1 詩を吟じる
● 神仙 shen2xian (仙人の意から)→〔喩〕なんの苦労も気がかりもなく、悠々自適の生活をする人
● 一流 yi1liu2 同類。同じ仲間
<國哲學書電子化計劃>
一日,炎夏永晝,士隱於書房閒坐,手倦拋書,伏几盹睡。不覺朦朧中走至一處,不辨是何地方,忽見那廂來了一僧一道,且行且談。只聽道人問道:「你攜了此物,意欲何往?」那僧笑道:「你放心。如今現有一段風流公案正該了結,--這一干風流冤家尚未投胎入世--趁此機會,就將此物夾帶於中,使他去經歷經歷。」那道人道:「原來近日風流冤家又將造劫歷世。但不知起於何處?落於何方?」那僧道:「此事說來好笑。只因當年這個石頭,媧皇未用,自己卻也落得逍遙自在,各處去遊玩。一日,來到警幻仙子處,那仙子知他有些來歷,因留他在赤霞宮中,名他為赤霞宮神瑛侍者。他卻常在西方靈河岸上行走,看見那靈河岸上三生石畔有棵絳珠仙草,十分嬌娜可愛,遂日以甘露灌溉,『這絳珠草』始得久延歲月。後來既受天地精華,復得甘露滋養,遂脫了草木之胎,幻化人形,僅僅修成女體,終日游於『離恨天』外,饑餐『秘情果』,渴飲『灌愁水』。只因尚未酬報灌溉之德,故甚至五內鬱結著一段纏綿不盡之意,常說:『自己受了他雨露之惠,我並無此水可還;他若下世為人,我也同去走一遭,但把我一生所有的眼淚還他,也還得過了!』因此一事,就勾出多少風流冤家都要下凡,造歷幻緣。那絳珠仙草也在其中。今日這石正該下世,我來特地將他仍帶到警幻仙子案前,給他掛了號,同這些情鬼下凡,一了此案。」那道人道:「果是好笑,從來不聞有還淚之說。趁此你我何不也下世度脫幾個,豈不是一場功德?」那僧道:「正合吾意。你且同我到警幻仙子宮中,將這蠢物交割清楚。待這一干風流孽鬼下世,你我再去。如今有一半落塵,然猶未全集。」道人道:「既如此,便隨你去來。」
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回 (その三)
一日,炎夏永昼,士隠于書房閑坐,至手倦抛書,伏几少憩,不覚朦朧睡去.夢至一処,不辨是何地方.忽見那廂来了一僧一道,且行且談.只聴道人問道:“你携了這蠢物,意欲何往?”那僧笑道:“你放心,如今現有一段風流公案正該了結,這一干風流冤家,尚未投胎入世.趁此机会,就将此蠢物夾帯于中,使他去経歴経歴。”那道人道:“原来近日風流冤孽又将造劫歴世去不成?但不知落于何方何処?”
[訳]ある日のこと、夏の暑い盛りの昼下がり、士隠が書斎でぼんやり座っていたが、書きものに飽き書を放り出し、床几に伏してしばし休息したが、思わず朦朧と眠りに落ちた。夢の中であるところに行ったが、それがどこだか分からなかった。ふと、あちらから僧侶と道士がやって来て、歩きながら話をしていたが、道士がこう問うのだけが聞こえた。「あなたが持ってきたこのやくざものを、どこにやろうとお思いか。」その僧侶は笑って言った。「安心しなさい。今とある色ごとのもめごとを解決しようとしているが、この色ごとの仇役は、まだ生を受けて浮世で暮らしたことがない。この機会に、このやくざものをその中に挟み込んで、きゃつに浮世の経験をさせてみようと思うのじゃが。」その道士は言った。「確か最近色ごとの仇役が劫(ごう)を一回経験してきたのではありませんでしたか。どの方面のどこに降りたのか知りませんが。」
● 了結 liao3jie2 解決する
● 一干 yi1gan1 ある事件に関係のある(すべての人を指す)
● 投胎 tou2tai1 生まれる。生を受ける
● 冤孽 yuan1nie4 前世の因業(いんごう)
● 造劫歴世 zao4jie2li4shi4 劫(ごう)を一回経験した
<この色ごとの仇役>は<風流冤家>訳なのだが適当ではない。前後のいくつかの言葉も説明なしでは日本人の読者には理解できないだろう。
風流冤家の<風流>は説明済みだが、日本語の風流ではなく、<色恋沙汰>、さらには<花柳界>をさす。冤家が問題で<冤=仇(かたき)>ではない。ネット上でのある解説では
“风流冤家”指相爱恋的男女。“冤家”作“仇人”、“对头”解,也用作对所爱之人的呢称,即爱极的反语。”
となっている。 相爱恋的男女でもいさかいはある。
風流公案の<公案>は禅用語では<禅問答>だが、ここでは<男女関係の案件>と言ったところだろう。
一干風流冤家の<一干>は上の解説にあるように<ある事件に関係のある(すべての人を指す)>で風流冤家がそこそこあるのだ。
<投胎 tou2tai1>は<生まれる。生を受ける>で<生を受けて浮世で暮らす>ことをさすのだが、この石ころの場合は<浮世で暮らしたことがある>。そして青梗峰に戻って《石頭記》を書いたことになっている。
那僧笑道:“此事説来好笑,竟是千古未聞的罕事.只因西方霊河岸上三生石畔,有絳珠草一株,時有赤瑕宮神瑛侍者,日以甘露灌漑,這絳珠草始得久延歳月.后来既受天地精華,復得雨露滋養,遂得脱却草胎木質,得換人形,僅修成个女体,終日游于離恨天外,飢則食蜜青果為膳,渇則飲灌愁海水為湯.只因尚未酬報灌漑之,故其五内便郁結着一段纏綿不尽之意.恰近日這神瑛侍者凡心偶熾,乗此昌明太平朝世,意欲下凡造歴幻縁,已在警幻仙子案前挂了号.警幻亦曾問及,灌漑之情未償,趁此倒可了結的.那絳珠仙子道:‘他是甘露之惠,我并无此水可還.他既下世為人,我也去下世為人,但把我一生所有的眼涙還他,也償還得過他了.’因此一事,就勾出多少風流冤家来,陪他們去了結此案。”
[訳]その僧侶は笑って言った。「このことは話すとおかしいことだが、長い年月聞いたことのない珍事であった。西方の霊河の岸の三生石の畔に、絳珠草がひと株あり、赤瑕宮の神瑛の従者が、毎日甘露をかけてやっていたが、この絳珠草は寿命が延び、やがて天地の精華を受け、また雨露の滋養を得て、ついには草胎木質から脱却し、人の形に変わるを得、ただ女体を修成し、一日中、離恨天の外に遊び、餓えれば蜜青果を食して膳とし、渇けば灌愁海の水を飲んで湯とした。ただ未だ灌漑のに報いていなかったので、体中気がふさぎ、悶々としていた。ちょうどこの神瑛の従者が下界への思いが俄かに激しくなり、この昌明太平の世に下界に降りて、幻の縁(えにし)を経験したいと思い、警幻仙子の所に行って届け出をした。警幻が質問をしていくと、灌漑の情がまだ償われておらず、この機会にそれを精算することにした。かの絳珠仙子が言うには、「あの方に甘露の恵をいただいたが、私はこの水をお返しすることはできません。あの方が下界に降りて人間になられるなら、私も下界に行って人となり、私の一生の涙でもってお返しすれば、あの方に償ったことになりましょう。」このことで、多くの色ごとの仇役が呼び出され、彼らといっしょにこの事件を解決に行くことになったのである。」
● 五内 wu3nei4 五臓
● 郁結 yu4jie2 気がふさぎ、晴れ晴れしない
● 纏綿 chan2mian2 まとわりつく
● 昌明 chang1ming2 政治や文化が盛んである。繁栄している
● 下凡 xia4fan2 神仙が下界に下りる
● 造歴幻縁 zao4li4huan4yuan2 幻の縁(えにし)を経験する
実際変な話で 突然<絳珠草>とそれを育てた<赤瑕宮神瑛の従者>の話となる。
<灌漑之情> はよくわからないが<灌漑之情未償>とあるので<赤瑕宮神瑛の従者>が<水の代わりに甘露をかけて育てた情(なさ)け>のことだろう。情けには報いないといけない。
最期に<就勾出多少風流冤家来,陪他們去了結此案(多くの相爱恋的男女が呼び出し、彼らといっしょにこの件を解決しに行くことになったのである。)>とあるので、これは一例に過ぎないのだ。
那道人道:“果是罕聞.実未聞有還涙之説.想来這一段故事,比歴来風月事故更加瑣砕細膩了。”那僧道:“歴来几个風流人物,不過伝其大概以及詩詞篇章而已,至家庭閨閣中一飲一食,総未述記.再者,大半風月故事,不過偸香窃玉,暗約私奔而已,并不曾将儿女之真情発泄一二.想這一干人入世,其情痴色鬼,賢愚不肖者,悉与前人伝述不同矣。”
[訳]その道士が言うには、「確かに聞いたことのない話だ。涙で償うというのは聞いたことがない。思うにこのお話は、これまでの色ごとの事件に比べこまごまとしてわずらわしいようだが。」その僧侶は言った。「これまでの何人かの色恋沙汰になった人物は、そのことの大筋と詩や文章が伝わっているだけで、家庭の閨房での一飲一食のことは、述べられていない。また、大半の色ごとの話は、香や玉を盗んだとか、示し合わせて駆け落ちしたとかいうことばかりで、若い男女の本当の気持ちは少しも表わされていない。思うに今回一群の人が下界に降り、その情痴色鬼、賢愚不肖なるは、悉く前人の伝述とは異なりましょう。」
其情痴色鬼賢愚不肖者,悉與前人傳述不同矣
<賢愚不肖者>の解説がない。<情痴><色鬼>であれば<愚不肖>のはずだ。<不肖わたくし>と日本語のなっている。中国語でも
-
指後代子孫品性不良或沒有出息。
【例】不肖子弟 -
品德不良的。
【例】不肖商人
那道人道:“趁此何不你我也去下世度脱几個,豈不是一場功?”那僧道:“正合吾意,你且同我到警幻仙子宮中,将蠢物交割清楚,待這一干風流孽鬼下世已完,你我再去.如今雖已有一半落塵,然猶未全集。”道人道:“既如此,便随你去来。”
[訳]その道士が言うには、「この機会に我々もいっしょに下界に降り、済度し解脱するというのも、功徳になるのではありますまいか。」僧侶が言うには、「私もそう思う。いっしょに警幻仙子の宮中に行き、やくざものをきっちり受け渡したら、これらの色恋沙汰の亡霊たちが皆下界に降りてしまってから、私たちも行くとしよう。今はもう半分くらいが浮世に下ったが、まだ全員がそろっていないので。」道士は言った。「そういうことなら、あなたといっしょに行くことにしよう。」
● 度脱 du4tuo1 済度し解脱する
● 交割 jiao1ge1 受け渡し。決済
● 孽鬼 nie4gui3 よこしまな亡霊
● 落塵 luo4chen2 浮世に下りる
ここでは孽鬼が<色恋沙汰の亡霊たち>となっている。
<國哲學書電子化計劃>
卻說甄士隱俱聽得明白,遂不禁上前施禮,笑問道:「二位仙師請了。」那僧道也忙答禮相問。士隱因說道:「適聞仙師所談因果,實人世罕聞者。但弟子愚拙,不能洞悉明白。若蒙大開癡頑,備細一聞,弟子洗耳諦聽,稍能警省,亦可免沉淪之苦了。」二仙笑道:「此乃玄機,不可預洩。到那時只要不忘了我二人,便可跳出火坑矣。」士隱聽了,不便再問,因笑道:「玄機固不可洩露,但適云『蠢物』,不知為何?或可得見否?」那僧說:「若問此物,倒有一面之緣。」說著,取出遞與士隱。
士隱接了看時,原來是塊鮮明美玉,上面字跡分明,鐫著「通靈寶玉」四字,後面還有幾行小字。正欲細看時,那僧便說「已到幻境」,就強從手中奪了去,和那道人竟過了一座大石牌坊,上面大書四字,乃是「太虛幻境」。兩邊又有一副對聯,道:「假作真時真亦假,無為有處有還無。」
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回 (その三)
却説甄士隠俱聴得明白,但不知所云“蠢物”系何東西.遂不禁上前施礼,笑問道:“二仙師請了。”那僧道也忙答礼相問.士隠因説道:“適聞仙師所談因果,実人世罕聞者.但弟子愚濁,不能洞悉明白,若蒙大開痴頑,備細一聞,弟子則洗耳諦聴,稍能警省,亦可免沈倫之苦。”二仙笑道:“此乃玄机不可預泄者.到那時不要忘我二人,便可跳出火坑矣。”士隠聴了,不便再問.因笑道:“玄机不可預泄,但適云‘蠢物’,不知為何,或可一見否?”那僧道:“若問此物,倒有一面之縁。”説着,取出逓与士隠.士隠接了看時,原来是塊鮮明美玉,上面字迹分明,鐫着“通霊宝玉”四字,后面還有几行小字.正欲細看時,那僧便説已到幻境,便強従手中奪了去,与道人竟過一大石牌坊,上書四个大字,乃是“太虚幻境”.両辺又有一幅対聯,道是:
[訳]はてさて甄士隠はすっかり聞いて理解したが、言われている「やくざもの」が何のことかわからない。思わず前に出て拝礼し、にっこり笑って聞いた。「おふたりの仙師に伺いたい。」かの僧侶、道士も急いで返礼して挨拶をした。士隠はそこで説明した。「ちょうど仙師が因果について話されているのを聞き、実に人の世ではめったに聞けないことでした。しかし私は愚鈍なので、はっきりとはわかりません。愚かさをさらけ出すようですが、一部始終をお聞かせいただけるなら、私は耳を洗って詳しく伺い、多少用心すれば、罪悪の泥沼にはまり込む苦しみから免れることもできるでしょう。」二人の仙人は笑って言った。「これすなわち玄妙の道理で、予め漏らすことはできぬ。その時に我々二人を忘れなければ、泥沼の状態から抜け出すことができましょう。」士隠は聞くと、これ以上問うことができず、笑って言った。「玄妙の道理は予め漏らせぬとのことですが、先ほど言われた「やくざもの」とはどういう物ですか。ひと目見せていただけませんか。」僧侶は言った。「この物のことを聞くのであれば、多少の縁(えにし)があるのであろう。」そう言うと、取りだして士隠に手渡した。士隠が受け取って見ると、それは美しい玉であり、その上には字迹も鮮やかに「通霊宝玉」の四文字が刻まれており、その後ろにも何行かの小さな文字があった。よく見ようとした時、僧侶は既に幻境に着いたと言うや、強引に手の中から奪い取り、道士と共に大きな石の牌楼を通り過ぎた。その牌楼には、上に「太虚幻境」の四文字が書かれ、両側には一幅の対聯があった。それには。次のように書かれていた:
● 洞悉 dong4xi1 はっきりわかる
● 大開痴頑 da4kai1chi1wan2 愚かさをさらけ出す
● 備細 bei4xi4 一部始終。詳細
● 諦聴 di4ting1 詳しく聞く
● 警省 jing3xing3 用心深い
● 沈倫之苦 chen2lun2zhi1ku3 罪悪の泥沼にはまりこむ苦しみ
● 玄机 xuan2ji1 (道教)玄妙な道理
● 預泄 yu4xie4 あらかじめ漏らす
● 火坑 huo3keng1 泥沼の生活
假作真時真亦假,無為有処有還無.
[訳]うそが真の時は真もまたうそであり、無が有になるところでは有は無に還る
sptt注
この箇所甄士隠が必要以上に“蠢物”にこだわっている。
<國哲學書電子化計劃>
士隱意欲也跟著過去,方舉步時,忽聽一聲霹靂,若山崩地陷。士隱大叫一聲,定睛看時,只見烈日炎炎,芭蕉冉冉,夢中之事便忘了一半。又見奶母抱了英蓮走來。士隱見女兒越發生得粉粧玉琢,乖覺可喜,便伸手接來,抱在懷中,鬥他玩耍一回,又帶至街前看那過會的熱鬧。方欲進來時,只見從那邊來了一僧一道。那僧癩頭跣足,那道跛足蓬頭,瘋瘋癲癲,揮霍談笑而至。及到了他門前,看見士隱抱著英蓮,那僧便大哭起來,又向士隱道:「施主,你把這有命無運累及爹娘之物抱在懷內作甚?」士隱聽了,知是瘋話,也不睬他。那僧還說:「捨我罷!捨我罷!」士隱不耐煩,便抱女兒轉身纔要進去。那僧乃指著他大笑,口內念了四句言詞,道是:
慣養嬌生笑你癡,菱花空對雪澌澌。好防佳節元宵後,便是煙消火滅時。
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回 (その三)
士隠意欲也跟了過去,方挙歩時,忽聴一声霹靂,有若山崩地陷.士隠大叫一声,定睛一看,只見烈日炎炎,芭蕉冉冉,所夢之事便忘了大半.又見奶母正抱了英蓮走来.士隠見女儿越発生得粉粧玉琢,乖覚可喜,便伸手接来,抱在懐内,斗他頑耍一回,又帯至街前,看那過会的熱鬧.方欲進来時,只見従那辺来了一僧一道:那僧則癩頭跣脚,那道則跛足蓬頭,瘋瘋癲癲,揮霍談笑而至.及至到了他門前,看見士隠抱着英蓮,那僧便大哭起来,又向士隠道:“施主,你把這有命無運,累及爹娘之物,抱在懐内作甚?”士隠聴了,知是瘋話,也不去睬他.那僧還説:“舍我罷,舍我罷!”士隠不耐煩,便抱女儿撤身要進去,那僧乃指着他大笑,口内念了四句言詞道:
[訳]士隠はついて行こうと思い、足を上げた時、突然雷鳴が聞こえ、山が崩れ地面が陥没したようで、士隠が大声をあげたところ、ふと目覚めて、見てみると、太陽がかんかん照りつけており、芭蕉はしなやかに垂れ、夢で見たことは大半を忘れてしまった。乳母が英蓮を抱いてやって来るのが見えた。士隠は娘が白粉を塗り玉を磨いたように真っ白な肌に育っているのを見ると、おりこうさんで好ましく、手を伸ばして英蓮を乳母から受け取ると、胸の中に抱きかかえ、ひとしきり遊ばせると、彼女を連れて通りの方へ行ったところ、そちらはたいへんにぎやかであった。ちょうど通りに出ようとしたところ、あちらから僧侶と道士が歩いて来た。僧侶はかさぶた頭で髪は抜け、はだしで、道士はびっこをひいて髪はぼうぼう、きちがいじめた様子で、盛んにぺちゃくちゃしゃべりながらやって来た。彼らの前までやって来て、士隠が英蓮を抱いているのを見ると、僧侶は大声で泣き出し、士隠に言った。「旦那さま、あなたはこの不幸な星の下に生まれた、災いが父母に及ぶ物を、胸に抱いてどうするのですか。」士隠はそれを聞くと、でたらめな話と思い、相手にしなかった。僧侶はまた言った。「捨てておしまいなさい、捨てておしまいなさい。」士隠はがまんできず、娘を抱いてうしろを向いて立ち去ろうとすると、僧侶は彼を指さして大笑いすると、口の中で四句のことばを念じて言った:
● 霹靂 pi1li4 雷
● 定睛 ding4jing1 ひとみを凝らす。じっと見る
● 炎炎 yan2yan2 太陽がかんかん照りつける様
● 冉冉 ran3ran3 しなやかに垂れる
● 粉粧玉琢 fen3zhuang1yu4zhuo2 おしろいを塗り玉を磨いた(ように真白)
● 乖覚可喜 guai1jue2ke3xi3 賢く喜ばしい
● 斗 dou4 手合わせをする
● 頑耍 wan2shua3 遊ぶ
● 過会 guo4hui4 たいへん
● 癩頭跣脚 lai4tou2xian3zu2 かさぶた頭で髪の毛も抜け、はだしで
● 跛足蓬頭 bo3zu2peng2tou2 びっこで髪はぼうぼう
● 瘋瘋癲癲 feng1fengdian1dian きちがいじみている
● 揮霍 hui1huo4 金銭を湯水のように使う。動作が敏捷である
● 施主 shi1zhu3 施主。檀家。僧侶が在家の人に対し用いる呼び方
● 有命無運 you3ming4wu2yun4 不幸な星の下に生まれた
● 爹娘 die1niang2 父母。両親
● 睬 cai3 相手にする
慣養嬌生笑你痴,菱花空対雪澌澌.好防佳節元宵后,便是煙消火滅時.
[訳] 甘やかされて大きくなり、おまえの愚かさを笑う。菱の花は空しく対し、雪はしんしんと降る。なんぞ防げよう、佳節元宵の後、煙消火滅の時を。
● 慣養嬌生 guan4yang3jiao1sheng1 =嬌生慣養:甘やかされて大きくなる
● 菱花 ling2hua1 “菱”は英蓮の後の名“香菱”を指す
● 雪澌澌 xue3si1si1 “雪”は“薜”と諧音(音が同じ、もしくは似ている)で、英蓮の薜家での悲惨な運命を暗示する。“澌澌”雪がしんしんと降る
● 好防 hao3fang2 なんぞ防げようか
この箇所もややこしい。甄士隠は夢からさめるのだがまた別の僧と道士が出て来る。今度は<那僧則癩頭跣脚,那道則跛足蓬頭、僧侶はかさぶた頭で髪は抜け、はだしで、道士はびっこをひいて髪はぼうぼう>の僧と道士だ。
最後の詩は解説にあるように英蓮の将来を暗示するもので伏線と言える。これは明らかだが、暗示的な複線が紅楼夢には相当ありそう。<紅学>の一つだ。上で<この箇所甄士隠が必要以上に“蠢物”にこだわっている>と書いたが、これも伏線だろう。
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回 の方は以下(その四)となる。
<國哲學書電子化計劃>
士隱聽得明白,心下猶豫,意欲問他來歷,只聽道人說道:「你我不必同行,就此分手,各幹營生去罷。三劫後,我在北邙山等你,會齊了,同往太虛幻境銷號。」那僧道:「最妙,最妙。」說畢,二人一去,再不見個蹤影了。士隱心中此時自忖:「這兩人必有來歷,很該問他一問,--如今後悔卻已晚了!
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回(その四)
士隠聴得明白,心下猶豫,意欲問他們来歴.只聴道人説道:“你我不必同行,就此分手,各干営生去罷.三劫后,我在北邙山等你,会斉了同往太虚幻境銷号。”那僧道:“最妙,最妙!”説畢,二人一去,再不見個踪影了.士隠心中此時自忖:這両個人必有来歴,該試一問,如今悔却晩也.
[訳]士隠は聞いてその内容は理解したが、心ではためらいがあり、彼らの来歴を聞きたいと思った。ただ道士のこう言うのだけが聞こえた。「我々はいっしょに行く必要はない。ここで分かれて、それぞれ仕事をしに行こう。三劫の後、私は北邙山であなたを待つので、会えたらいっしょに太虚幻境に行って登録を取り消そう。」僧侶は言った。「妙なるかな、妙なるかな。」言い終わると、ふたりは立ち去り、再びその姿を見ることはなかった。士隠は心の中でこの時思った。このふたりにはいわれがあるに違いなく、聞いてみないといけなかったのだが、今となっては残念ながら手遅れだ。
● 猶豫 you2yu4 ためらう
● 営生 ying2sheng1 仕事
● 銷号 xiao1hao4 登録を取り消す
● 踪影 zong1ying3 跡形。捜索の対象を指す。否定の形で使うことが多い
● 自忖 zi4cun3 推し量る。思う
<國哲學書電子化計劃>
這士隱正在癡想,忽見隔壁葫蘆廟內寄居的一個窮儒--姓賈名化,表字時飛,別號雨村的--走來。這賈雨村原係湖州人氏,也是詩書仕宦之族。因他生於末世,父母祖宗根基已盡,人口衰喪,只剩得他一身一口,在家鄉無益,因進京求取功名,再整基業。自前歲來此,又淹蹇住了,暫寄廟中安身,每日賣文作字為生,故士隱常與他交接。
當下雨村見了士隱,忙施禮,陪笑道:「老先生倚門佇望,敢街市上有甚新聞麼?」士隱笑道:「非也。適因小女啼哭,引他出來作耍,正是無聊的很。賈兄來得正好,請入小齋,彼此俱可消此永晝。」說著,便令人送女兒進去,自攜了雨村來至書房中。小童獻茶。方談得三五句話,忽家人飛報:「嚴老爺來拜。」士隱慌忙起身謝道:「恕誆駕之罪。且請略坐,弟即來奉陪。」雨村起身也讓道:「老先生請便。晚生乃常造之客,稍候何妨。」說著,士隱已出前廳去了。
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回(その四)
這士隠正痴想,忽見隔壁葫芦廟内寄居的一个窮儒-姓賈名化,表字時飛,別号雨村者走了出来.這賈雨村原系湖州人氏,也是詩書仕宦之族,因他生于末世,父母祖宗根基已尽,人口衰喪,只剩得他一身一口,在家郷無益,因進京求取功名,再整基業.自前歳来此,又淹蹇住了,暫寄廟中安身,毎日売字作文為生,故士隠常与他交接.当下雨村見了士隠,忙施礼陪笑道:“老先生倚門佇望,敢是街市上有甚新聞否?”士隠笑道:“非也.適因小女啼哭,引他出来作耍,正是无聊之甚,兄来得正妙,請入小斎一談,彼此皆可消此永昼。”説着,便令人送女儿進去,自与雨村携手来至書房中.小童献茶.方談得三五句話,忽家人飛報:“厳老爺来拜。”士隠慌的忙起身謝罪道:“恕誑駕之罪,略坐,弟即来陪。”雨村忙起身亦譲道:“老先生請便.晚生乃常造之客,稍候何妨。”説着,士隠已出前庁去了.
[訳]士隠がちょうど妄想にふけっていると、ふと隣のひょうたん廟に寄宿している貧しい儒者、姓は賈、名は化、字は時飛、号を雨村という者が出てくるのが見えた。この賈雨村というのは元々湖州の人で、読書人で役人の家柄であったが、末世に生まれたので、父母の祖先の財産は尽き果て、家族は衰え無くなり、ただ彼一人が残り、故郷にいても意味がなく、都に出て官職を得ようと、家屋敷を処分して、前年にここにやって来たものの、うまくいかず、しばらくは廟の中に身を寄せ、普段は揮毫や代筆をして暮らしていたが、士隠とはいつも付き合いがあった。雨村は士隠を見かけると、急いでお辞儀をして愛想笑いをして言った。「先生は門にもたれてしばらく街の方を見ておられましたが、おそらく街で何かあったのでございましょう?」士隠は笑って答えた。「そうではなく、ちょうど娘がぐずりましたので、連れてきて遊ばせておりまして、退屈をしていたところです。貴兄が来られてちょうどよい、中に入ってお話をし、お互いにこの昼をやり過ごしませんか。」そう言うと、人に娘を連れて行かせ、自分は雨村といっしょに書斎に入って行った。小僧が茶を淹れた。ちょうど二言三言話をしたところで、急に家の者が駆けつけて言うには、「厳の旦那様がお越しでございます。」士隠はあわてて体を起こし、謝った。「わざわざお越しいただいたのをだますことになったのをお許しください。しばらく座っていてください。しばらくしたら戻ってお相手しますので。」雨村は急いで体を起こし譲って言った。「先生、どうぞご随意に。私はいつも来ていますから、しばらくお待ちするのはなんでもありませんから。」そう言うと、士隠は入口の間の方に行った。
● 仕宦 shi4huan4 官職につく
● 根基 gen1ji1 家の財産
● 功名 gong1ming2 科挙に及第して得た資格や官職
● 基業 ji1ye4 事業発展の基礎。ここでは家屋敷などの家財
● 淹蹇 yan1jian3 うまくいかない
● 交接 jiao1jie1 付き合う
● 倚門 yi3men2 門にもたれる
● 佇望 zhu4wang4 しばらくたたずんで見る
● 談得三五句話 tan2desan1wu3ju4hua4 二言三言話をする
● 誑kuang2 だます
● 駕 jia4 〔敬〕相手の出向くことを指す
● 請便 qing3bian4 どうぞご随意に
● 晚生 wan3sheng1 (先輩、または1世代上の人に対し)私
● 常造 chang2zao4 いつも来る
<國哲學書電子化計劃>
這裡雨村且翻弄詩籍解悶。忽聽得窗外有女子嗽聲,雨村遂起身往外一看,原來是一個丫鬟在那裡掐花兒。生得儀容不俗,眉目清秀,雖無十分姿色,卻也有動人之處。雨村不覺看得呆了。那甄家丫鬟掐了花兒,方欲走時,猛抬頭見窗內有人,敞巾舊服,雖是貧窘,然生得腰圓背厚,面闊口方,更兼劍眉星眼,直鼻方腮。這丫鬟忙轉身迴避,心下自想:「這人生的這樣雄壯,卻又這樣襤褸,我家並無這樣貧窘親友,想他定是主人常說的什麼賈雨村了。--怪道又說他『必非久困之人!』每每有意幫助周濟他,只是沒有什麼機會。」如此一想,不免又回頭一兩次。雨村見他回頭,便以為這女子心中有意於他,遂狂喜不禁,自謂此女子必是個巨眼英豪,風塵中之知己。
一時,小童進來。雨村打聽得前面留飯,不可久待,遂從夾道中自便門出去了。士隱待客既散,知雨村已去,便也不去再邀。
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回(その四)
這里雨村且翻弄書籍解悶.忽聴得窓外有女子嗽声,雨村遂起身往窓外一看,原来是一个丫鬟,在那里擷花,生得儀容不俗,眉目清明,雖無十分姿色,却亦有動人之処.雨村不覚看的呆了.那甄家丫鬟擷了花,方欲走時,猛抬頭見窓内有人,敝巾旧服,雖是貧窘,然生得腰圓背厚,面闊口方,更兼劍眉星眼,直鼻権腮.這丫鬟忙転身回避,心下乃想:“這人生的這様雄壮,却又這様襤褸,想他定是我家主人常説的什麼賈雨村了,毎有意帮助周済,只是没甚机会.我家并無這様貧窘親友,想定是此人無疑了.怪道又説他必非久困之人。”如此想来,不免又回頭両次.雨村見他回了頭,便自為這女子心中有意于他,便狂喜不尽,自為此女子必是个巨眼英雄,風塵中之知己也.一時小童進来,雨村打聴得前面留飯,不可久待,遂従夾道中自便出門去了.士隠待客既散,知雨村自便,也不去再邀
[訳]ここで雨村は書籍の頁をめくって退屈しのぎをしていた。ふと窓の外から女性の咳をする声が聞こえた。雨村が身を起して窓の外を見てみると、一人の女中がそこで花を摘んでいたが、容貌が常ならず、目もとがくっきりして、びっくりするほどの美人ではないが、人を惹きつけるところがあった。雨村は思わず見とれてしまった。その甄家の女中は花を摘んで、行こうとした時に、急いで頭を上げると窓の中に人がいて、破れたぼろの古着を着ており、貧しく困窮しているが、腰に丸みがあり背中に厚みがあり、顔が広く口が四角く、更にりりしい眉、星のような眼、まっすぐ通った鼻、突き出た頬骨をしていた。この女中は背中を向けて逃げて行ったが、心の中で思った。「この方はこんなに逞しいのに、身なりはこんなにみすぼらしい。この方はきっとうちのご主人様がいつも言われている賈雨村とかいわれる方に違いない。いつも援助をしようと思うのだが、機会がないとか。当家にはこんな貧しく困っておられるお友達はおられないから、この方に間違いない。この方はいつまでも困窮されているお方ではないと言われるのも当然だわ。」このように考えると、我慢できず二度振り返って見た。雨村は彼女が振り返って見るのを見て、この子は私に気があると思い、狂わんばかりに喜び、この女は英雄を見分ける鑑識眼を持っている、浮世の知己だと思った。しばらくして小僧が入って来て、雨村は表で食事を用意すると聞いたので、これ以上待ってもと思い、通路を通って勝手口から出て行った。士隠は客が帰った後、雨村が先に帰ったことを知ったが、もう一度呼びに行くようなことはしなかった。
● 嗽声 sou4sheng1 せきをする声
● 擷花 xie2hua1 花を摘む
● 儀容 yi2rong2 容貌
● 敝巾 bi4jin1 破れた布きれ
● 貧窘 pin2jiong3 貧しく困窮している
● 腰圓背厚 yao1yuan2bei4hou4 腰に丸みがあり背中に厚みがある
● 面闊口方 mian4kuo4kou3fang1 顔が広く口が四角い
● 劍眉星眼 jian4mei2xing1yan3 りりしい眉、星のような眼
● 直鼻権腮 zhi2bi2quan2sai1 まっすぐ通った鼻、突き出た頬骨
● 襤褸 lan2lv3 衣服がぼろぼろである
● 周済 zhou1ji4 救済する。物質的な援助をする
● 巨眼 ju4yan3 すぐれた鑑識眼。大した目利き
<國哲學書電子化計劃>
一日,到了中秋佳節,士隱家宴已畢,又另具一席於書房,自己步月至廟中來邀雨村。
原來雨村自那日見了甄家丫鬟,曾回顧他兩次,自謂是個知己,便時刻放在心上。今又正值中秋,不免對月有懷,因而口占五言一律云:
未卜三生願,頻添一段愁。悶來時歛額,行去幾回頭。自顧風前影,誰堪月下儔?蟾光如有意,先上玉人樓。
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回(その四)
一日,早又中秋佳節.士隠家宴已畢,乃又另具一席于書房,却自己歩月至廟中来邀雨村.原来雨村自那日見了甄家之婢曾回顧他両次,自為是個知己,便時刻放在心上.今又正値中秋,不免対月有懐,因而口占五言一律云:
[訳]ある日、早くも中秋の佳節であった。士隠の家の宴は終わり、別に一席を書斎に準備すると、自分で月明かりの下を歩いて廟に雨村を呼びに行った。実は雨村はあの日甄家の女中に出会い、彼女が二度振り返り、あれは自分の知己だと思ってから、いつも気になっていて、今日はまたちょうど中秋に当たっているので、月への想い免れず、それゆえ五言の律詩を口ずさんで言うには:
未卜三生願,頻添一段愁.
悶来時斂額,行去几回頭.
自顧風前影,誰堪月下俦?
蟾光如有意,先上玉人楼.
[訳]まだ三世の契を占っていないが、頻りに愁いが増す。
悩ましい時、額に皺寄せ、行っては何度も振り返る。
自分は浮世に一人でいるけれども、誰が私の伴侶にふさわしいのだろう?
月光よ、もしその気があるなら、先に美人の家に上がってその姿を照らしておくれ。
● 三生 san1sheng1 三世。“卜三生願”:結婚を占う
● 斂額 lian3e2 眉の皺を寄せる
● 俦 chou2 仲間。伴侶
● 蟾 chan2 ヒキガエル。“蟾光”:月の光。月にはヒキガエルがいるという伝説から。
● 玉人 yu4ren2 美人。玉のようにあでやかな女性
そこそこのラブソングとおもうが、
自顧風前影 =自分は浮世に一人でいるけれども
になるかと言うと
站在风中,看自己在风中(暗喻风尘之中)的影子形单影只
堪(kān)は
bear, endure, can stand; can, may
日本語では<堪忍袋>というのがある。
雨村吟罷,因又思及平生抱負,苦未逢時,乃又搔首対天長嘆,復高吟一聯曰:
[訳]雨村は吟じ終わると、これまでの抱負に思い及んだので、苦しみがこみ上げて来ぬうちに、首を掻きながら天に向け長歎し、また一つの聯を吟じて言うには:
玉在匵中求善価,釵于奩内待時飛.
[訳]玉は箱の中に在りて善価を求め、釵は奩の内にて飛ぶ時を待つ。
(私も早く役人となり、羽ばたきたいものだ)
● 匵 kui4 =櫃 gui4 箱
● 釵 chai1 かんざし
● 奩 lian2 古代の女性の鏡箱
<私も早く役人となり、羽ばたきたいものだ>は相当の意訳で、中国文学の専門家でないとお手上げだ。
玉在匵中求善価,釵于奩内待時飛
注釈を加えると(コピー / ペイスト)
Baike-Baidu (中国版 Google)
したがって、ラブソングを作った賈雨村の心は丫鬟から<科挙をパスして高級役人になること>に移っている。甄士隱の方はこれをからかっている。
<國哲學書電子化計劃>
雨村吟罷,因又思及平生抱負,苦未逢時,乃又搔首對天長歎,復高吟一聯云:「玉在櫝中求善價,釵於奩內待時飛。」恰值士隱走來聽見,笑道:「雨村兄真抱負不凡也!」雨村忙笑道:「不敢。不過偶吟前人之句,何期過譽如此!」因問:「老先生何興至此?」士隱笑道:「今夜中秋,俗謂『團圓之節』,想尊兄旅寄僧房,不無寂寥之感,故特具小酌,邀兄到敝齋一飲。不知可納芹意否?」雨村聽了,並不推辭,便笑道:「既蒙謬愛,何敢拂此盛情?」說著,便同士隱復過這邊書院中來了。
須臾,茶畢,早已設下杯盤。那美酒佳肴自不必說。二人歸坐,先是款酌慢飲,漸次談至興濃,不覺飛觥獻斝起來。當時街坊上家家簫管,戶戶笙歌,當頭一輪明月,飛彩凝輝,二人愈添豪興,酒到杯乾。雨村此時已有七八分酒意,狂興不禁,乃對月寓懷,口占一絕云:
時逢三五便團圞,滿把清光護玉欄。天上一輪纔捧出,人間萬姓仰頭看。
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回(その四)
恰値士隠走来聴見,笑道:“雨村兄真抱負不浅也!”雨村忙笑道:“不過偶吟前人之句,何敢狂誕至此。”因問:“老先生何興至此?”士隠笑道:“今夜中秋,俗謂‘団円之節’,想尊兄旅寄僧房,不无寂寥之感,故特具小酌,邀兄到敝斎一飲,不知可納芹意否?"雨村聴了,并不推辞,便笑道:“既蒙厚愛,何敢拂此盛情。”説着,便同士隠復過這辺書院中来.須臾茶畢,早已設下杯盤,那美酒佳肴自不必説.二人帰坐,先是款斟漫飲,次漸談至興濃,不覚飛觥献斝起来.当時街坊上家家簫管,戸戸弦歌,当頭一輪明月,飛彩凝輝,二人愈添豪興,酒到杯干.雨村此時已有七八分酒意,狂興不禁,乃対月寓懐,口号一絶云:
[訳]ちょうど士隠が入って来てそれを聞いて、笑って言った。「雨村兄は本当に大きな抱負をお持ちですね。」雨村は慌てて笑って言った。「偶々昔の人の句を吟じたに過ぎず、どうしてこんなでたらめな考えを今まで持っているものですか。」それゆえ「老先生はこれまでどういうことに興味をお持ちですか。」と問うた。士隠は笑って言った。「今晩は中秋、俗に言う「団欒の節句」であり、お兄様は僧坊に寄宿されており、さびしくされているにちがいないので、特に粗宴を用意し、私の書斎にご招待し一献さしあげたいのですが、ご招待をお受けいただけますでしょうか。」雨村はそう聞くと、辞退もせず、笑って言った。「ご厚情を受けた限りは、どうしてそれに背くことができましょう。」そう言うと、士隠と共にまたこちらの書院の中に入って来て、しばらくしてお茶が終わると、早くも杯の盆が置かれ、かの美酒や肴は言うまでもない。二人は再び座ると、先ずは懇ろに酒を注ぎ、ゆっくりと飲みはじめ、次第に話に興が乗ってきて、知らず知らずに差しつ差されつになり、その頃には隣近所の家々の簫や楽器の演奏、一軒一軒、琴の演奏が流れ、頭上には一輪の名月が輝き、二人は益々興に乗って、酒を注がれればすぐ干し、雨村はこの時には七八割方でき上がり、楽しくてたまらず、すなわち月に対する思いを、一絶にして口ずさんで言うには:
● 誕 dan4 でたらめ
● 小酌 xiao3zhuo2 粗宴
● 芹意 qin2yi4 ちょっとした贈り物をする。ご招待
● 拂 fu2 逆らう。背く
● 盛情 sheng4qing2 厚意。厚情
● 須臾 xu1yu2 ちょっとの間。しばし
● 款 kuan3 ねんごろに。いんぎんに
● 斟 zhen1 酒や茶をつぐ、注ぐ
● 觥 gong1 獣の角で作った酒器
● 斝 jia3 古代の3本足の酒器
● 街坊 jie1fang 隣近所
● 簫管 xiao1guan3 簫や楽器の演奏
● 弦歌 xian2ge1 琴を弾き歌を歌う
● 豪興 hao2xing1 益々興に乗り
時逢三五便団円,満把晴光護玉欄.
天上一輪才捧出,人間万姓仰頭看.
[訳]いつも十五夜になると月はまん丸になる、清々しい月の光が欄干を照らす。
天上に一輪の満月の月がようやく出て来た、人々は皆それを仰ぎ見る
<國哲學書電子化計劃>
士隱聽了大叫:「妙極!弟每謂兄必非久居人下者,今所吟之句,飛騰之兆已見,不日可接履於雲霄之上了。可賀,可賀!」乃親斟一斗為賀。雨村飲乾,忽歎道:「非晚生酒後狂言,若論時尚之學,晚生也或可去充數掛名。只是如今行李路費,一概無措,神京路遠,非賴賣字撰文即能到的!」士隱不待說完,便道:「兄何不早言?弟已久有此意,但每遇兄時,並未談及,故未敢唐突。今既如此,弟雖不才,義利二字卻還識得。且喜明歲正當大比,兄宜作速入都。春闈一捷,方不負兄之所學。其盤費餘事,弟自代為處置,亦不枉兄之謬識矣。」當下即命小童進去速封五十兩白銀並兩套冬衣。又云:「十九日乃黃道之期,兄可即買舟西上。待雄飛高舉,明冬再晤,豈非大快之事?」雨村收了銀衣,不過略謝一語,並不介意,仍是吃酒談笑。那天已交三鼓,二人方散。
<紅楼夢を読む>の紅楼夢 第一回(その五)
士隠聴了,大叫:“妙哉!吾毎謂兄必非久居人下者,今所吟之句,飛騰之兆已見,不日可接履于云霄之上矣.可賀,可賀!”乃親斟一斗為賀.雨村因干過,嘆道:“非晩生酒后狂言,若論時尚之学,晩生也或可去充数沽名,只是目今行囊路費一概無措,神京路遠,非頼売字撰文即能到者。”士隠不待説完,便道:“兄何不早言.愚毎有此心,但毎遇兄時,兄并未談及,愚故未敢唐突.今既及此,愚雖不才,‘義利’二字却還識得.且喜明歳正当大比,兄宜作速入都,春闈一戦,方不負兄之所学也.其盤費余事,弟自代為処置,亦不枉兄之謬識矣!”当下即命小童進去,速封五十両白銀,并両套冬衣.又云:“十九日乃黄道之期,兄可即買舟西上,待雄飛高挙,明冬再晤,豈非大快之事耶!”雨村收了銀衣,不過略謝一語,并不介意,仍是吃酒談笑.那天已交了三更,二人方散.
[訳]士隠はそれを聞くと、大声で叫んだ。「すばらしい。私はいつも、あなたはこんな所に長く居られる人ではないと言っていましたが、今吟じられた句には飛翔の兆しが見てとれ、近いうちに踵を接して雲の上に上がって行かれましょう。いやめでたい、めでたい。」そして自ら一斗の酒を注ぎお祝いをした。雨村はそれを飲み干し、嘆いて言った。「酒の上での暴言ではないのですが、今流行りの学問を論じるのであれば、私も或いは員数合わせに名を連ねることもできるかもしれません。ただ、今のところ旅装を整えたり旅費の一切が準備できておらず、都への道は遠く、売字撰文に頼る者が到底できることではありません。」士隠は話が終わるのを待って、言った。「兄上、どうしてもっと早く言ってくれなかたのですか。愚弟はそのつもりがありましたが、いつも兄上に会っても、兄上が切り出されないので、愚弟の方からは敢えて失礼になることは申しませんでした。今ここに及びましては、愚弟は不才といえども、「義理」の二文字は知っております。しかも喜ばしいことに来年はちょうど会試の年に当たっており、兄上は速やかに都へ入られ、試験を受けられてこそ、兄上が学んで来られたことに申し訳が立ちましょう。旅費その他のことは、愚弟が代わって対処しますので、それで兄上と誤って知り合いになったことも無駄にならずにすみましょう。」すぐに小僧に命じて、五十両の銀子を包ませ、また冬の着物も二着用意させ、言った。「十九日は黄道の日に当たっていますから、兄上はすぐに船を雇って西に向かってください。雄飛高挙を期待しています。来年の冬にまたお目にかかれれば、すばらしいではありませんか。」雨村は銀子と衣料を受け取ると、簡単にお礼を言っただけで、別段気にするふうでもなく、酒を飲んだり談笑したりしていたが、その日も三更(夜中の12時頃)になり、二人は別れた。
● 不日 bu4ri4 ちかいうち
● 接履 jiellv3 =接踵 jie1zhong1 踵を接する。次々と
● 云霄 xun2xiao1 空
● 晩生 wan3sheng1 (先輩、または1世代上の人に対する自称)私
● 充数 chong1shu4 員数をそろえる
● 沽 gu1 売る (沽名釣誉:売名行為をする)「充数掛名」とするテキストもある。
● 行囊 xing2nang2 旅行用の袋
● 撰文 zhuan4wen2 文章を書く
● 唐突 tang2tu1 軽率な言動で失礼になる
● 大比 da4bi3 科挙の会試。各省の挙人(郷試の合格者)が3年ごとに首都で受けた。
● 春闈 chun1wei2 科挙の会試。春試とも言う。春に行われたことから。闈wei2とは、科挙の試験場のこと。
● 盤費 pan2fei4 旅費
● 枉 wang3 むだになる
● 謬識 miu4shi2 誤って知りあいになる
● 黄道 huang2dao4 黄道吉日:民間の信仰で、万事順調にいくとされる日。日本の大安吉日に当たる。「黄道日」ともいう。
● 晤 wu4 会う
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士隱送雨村去後,回房一覺,直至紅日三竿方醒。因思昨夜之事,意欲寫薦書兩封與雨村帶至都中去,使雨村投謁個仕宦之家為寄身之地,因使人過去請時,那家人回來說:「和尚說,賈爺今日五鼓已進京去了,也曾留下話與和尚轉達老爺,說:『讀書人不在黃道黑道,總以事理為要,不及面辭了。』」士隱聽了,也只得罷了。
紅楼夢 第一回(その五)
士隠送雨村去后,回房一覚,直至紅日三竿方醒.因思昨夜之事,意欲再写両封薦書与雨村帯至神都,使雨村投謁個仕宦之家為寄足之地.因使人過去請時,那家人去了回来説:“和尚説,賈爺今日五鼓已進京去了,也曾留下話与和尚転達老爺,説‘読書人不在黄道黑道,総以事理為要,不及面辞了.’”士隠聴了,也只得罷了.
[訳]士隠は雨村を見送ってから、部屋に戻って寝た。そして日が真上に来る頃にようやく目覚めた。昨晩の事があったので、さらに二通の推薦状を書いて雨村に都へ持たせ、雨村がお役人にお目通りし、寄宿できるようにしたいと思った。それで家の者に呼びに行かせると、その者が帰って来て言うには、「和尚様が言われるには、賈様は本日五鼓(朝8時頃)にはもう都に向かわれたとのことで、また和尚様に旦那さまへお伝えくださいと言われたことは、「読書人には黄道も道もなく、常に事の道理を以てすることが肝要と存じ、ご挨拶には伺いません」とのことでございました。」士隠はそう聞くと、どうすることもできなかった。
● 三竿 san1gan1 竿三本分の高さ
● 謁 ye4 目上の人、地位の高い人にお目にかかる
● 事理 shi4li3 事の道理
<國哲學書電子化計劃>
真是閒處光陰易過,倏忽又是元宵佳節。士隱令家人霍啟抱了英蓮去看社火花燈。半夜中,霍啟因要小解,便將英蓮放在一家門檻上坐著。待他小解完了來抱時,那有英蓮的蹤影?急的霍啟直尋了半夜,至天明不見,那霍啟也不敢回來見主人,便逃往他鄉去了。
紅楼夢 第一回(その五)
真是閑処光陰易過,倏忽又是元霄佳節矣.士隠命家人霍啓抱了英蓮去看社火花灯,半夜中,霍啓因要小解,便将英蓮放在一家門檻上坐着.待他小解完了来抱時,那有英蓮的踪影?急得霍啓直尋了半夜,至天明不見,那霍啓也就不敢回来見主人,便逃往他郷去了.
[訳]誠に閑居していると光陰矢のごとしで、たちまち元霄の佳節となった。士隠は召使の霍啓に命じて英蓮を抱いて、出し物や提灯を見に行かせた。夜半に霍啓が小便に行きたくなり、英蓮を一軒の家の敷居の上に座らせ、小用を終えて帰って来ると、どこにも英蓮の影も形も無くなっていた。慌てた霍啓は夜中のあいだ尋ね歩いたが、あたりが明るくなっても見つからず、かの霍啓は戻って主人に会うこともできず、故郷に逃げ帰ってしまった。
● 倏忽 shu1hu1 たちまち
● 元霄 yuan2xiao1 旧暦の1月15日
● 社火 she4huo3 祭りのとき民衆が集団的に行う娯楽演芸
● 花灯 hua1deng1 飾りをつけた燈籠。ランタン
● 小解 xiao3jie3 小便をする
● 門檻 men2kan3 (門や入口の)敷居
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那士隱夫婦見女兒一夜不歸,便知有些不好,再使幾個人去找尋,回來皆云音訊全無。夫妻二人,半世只生此女,一旦失去,何等煩惱!因此,晝夜啼哭,幾乎不顧性命。看看一月,士隱已先得病;夫人封氏,也因思女遘疾,日日請醫問卦。
紅楼夢 第一回(その五)
那士隠夫婦,見女儿一夜不帰,便知有些不妥,再使几人去尋找,回来皆云連音響皆無.夫妻二人,半世只生此女,一旦失落,豈不思想,因此昼夜啼哭,几乎不曾尋死.看看的一月,士隠先就得了一病,当時封氏孺人也因思女構疾,日日請医療治.
[訳]かの士隠夫婦は、娘が一晩中戻って来ていないことを知ると、何かよくないことが起こったと知り、もう一度何人かを尋ねに行かせたが、帰って来ても皆何の知らせも無いと言うばかりだった。夫妻は半生でこの娘しか産んでいないので、一旦それをなくすと、そのことばかり考え、昼も夜も泣き続け、危うく自殺するところであった。ひと月みてみると、士隠が先に病気になり、すぐに夫人の封氏も病気になり、毎日医者に来てもらい治療した。
● 不妥 bu4tuo3 適当でない。よくない
● 半世 ban4shi4 半生
● 失落 shi1luo4 なくす。紛失する
● 啼哭 ti2ku1 声を出して泣く
● 構疾 gou4ji2 病気になる
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不想這日,三月十五,葫蘆廟中炸供,那和尚不小心,油鍋火逸,便燒著窗紙。此方人家俱用竹籬木壁,也是劫數應當如此,於是接二連三,牽五掛四,將一條街燒得如火焰山一般。彼時雖有軍民來救,那火已成了勢了,如何救得下!直燒了一夜方息,也不知燒了多少人家。只可憐甄家在隔壁,早成了一堆瓦礫場了,只有他夫婦並幾個家人的性命不曾傷了。急的士隱惟跌足長歎而已。與妻子商議,且到田莊上去住。偏值近年水旱不收,盜賊蜂起,官兵剿捕,田莊上又難以安身。只得將田地都折變了,攜了妻子與兩個丫鬟投他岳丈家去。
紅楼夢 第一回(その五)
不想這日三月十五,葫芦廟中炸供,那些和尚不加小心,致使油鍋火逸,便焼着窓紙.此方人家多用竹籬木壁者,大抵也因劫数,于是接二連三,牽五挂四,将一条街焼得如火焰山一般.彼時雖有軍民来救,那火已成了勢,如何救得下?直焼了一夜,方漸漸的熄去,也不知焼了几家.只可怜甄家在隔壁,早已焼成一片瓦礫場了.只有他夫婦并几个家人的性命不曾傷了.急得士隠惟跌足長嘆而已.只得与妻子商議,且到田庄上去安身.偏値近年水旱不收,鼠盗蜂起,無非搶田奪地,鼠窃狗偸,民不安生,因此官兵剿捕,難以安身.士隠只得将田庄都折変了,便携了妻子与両個丫鬟投他岳丈家去.
[訳]思いがけず、この3月15日、ひょうたん廟ではお供えの菓子を油で揚げていて、和尚たちが注意を怠ったため、てんぷら鍋に火がつき、窓の紙を焼き、この地方の人家は多く竹垣や木の壁を用いており、おそらく劫(ごう)の数により、次々と燃え広がり、ひと筋の街路が火焰山のように燃えあがった。この時、軍民が救助に来たが、火に勢いがあり、どうして救い出せようか。一晩中燃え続いて、ようやく火は消えたが、何軒の家が焼けたかわからなかった。気の毒なことに甄家は隣であるので、とっくに焼けて瓦礫の山となってしまった。ただ夫婦と何人かの召使の命は損なわれることもなかった。慌てた士隠が地団太を踏み長嘆するばかりであった。仕方なく妻と相談し、田舎の荘園へ行って身を落ち着けることにした。折悪しく近年は干ばつで収穫ができず、盗賊が蜂起し、田や土地を奪い、こそどろが出て、民心が安定せず、官兵が討伐するも、身を安んじることができず、士隠は仕方なく田畑を売り払い、妻と二人の召使を連れて舅の家に身を寄せた。
● 劫数 jie2shu4 劫(ごう)の数
● 接二連三 =牽五挂四 次々と
● 瓦礫 wa3li4 がれき
● 跌足 die1zu2 地団太を踏む、足を踏み鳴らす
● 田庄 tian2zhuang1 官僚、地主が農村で所有していた田畑、荘園
● 安身 an1shen1 身を寄せる。身を置く
● 値 zhi2 ~に当たる。~にぶつかる
● 水旱不收 shui3han4bu4shou1 旱魃で収穫ができない
● 鼠窃狗偸 shu3qie4gou3tou1 こそどろ
● 剿捕 jiao3bu3 討伐して捕まえる
● 折変 zhe2bian4 売り払う
● 岳丈 yue4zhang4 岳父。妻の父。しゅうと
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他岳丈名喚封肅,本貫大如州人氏,雖是務農,家中卻還殷實。今見女婿這等狼狽而來,心中便有些不樂。幸而士隱還有折變田產的銀子在身邊,拿出來託他隨便置買些房地,以為後日衣食之計。那封肅便半用半賺的,略與他些薄田破屋。士隱乃讀書之人,不慣生理稼穡等事,勉強支持了一二年,越發窮了。封肅見面時便說些現成話兒,且人前人後又怨他不會過,只一味好吃懶做。士隱知道了,心中未免悔恨,再兼上年驚唬,急忿怨痛:暮年之人,那禁得貧病交攻?竟漸漸的露出那下世的光景來。可巧這日拄了拐掙扎到街前散散心時,忽見那邊來了一個跛足道人,瘋狂落拓,麻鞋鶉衣,口內念著幾句言詞道:
世人都曉神仙好,惟有功名忘不了。古今將相在何方?荒塚一堆草沒了!
世人都曉神仙好,只有金銀忘不了。終朝只恨聚無多,及到多時眼閉了!
世人都曉神仙好,只有姣妻忘不了。君生日日說恩情,君死又隨人去了!
世人都曉神仙好,只有兒孫忘不了。癡心父母古來多,孝順子孫誰見了!
紅楼夢 第一回(その五)
他岳丈名喚封粛,本貫大如州人氏,雖是務農,家中都還殷実.今見女婿這等狼狽而来,心中便有些不楽.幸而士隠還有折変田地的銀子未曾用完,拿出来托他随分就価薄置些須房地,為后日衣食之計.那封粛便半哄半賺,些須与他些薄田朽屋.士隠乃読書之人,不慣生理稼穡等事,勉強支持了一二年,越覚窮了下去.封粛毎見面時,便説些現成話,且人前人后又怨他們不善過活,只一味好吃懶作等語.士隠知投人不着,心中未免悔恨,再兼上年驚嚇,急忿怨痛,已有積傷,暮年之人,貧病交攻,竟漸漸的露出那下世的光景来.
[訳]彼の岳父の名は封粛といい、本籍は大如州の人である。農業を生業にしているが、家は豊かであった。今、娘婿らが狼狽して来たのを見て、心中おもしろくなかった。幸いにも、士隠が田畑を売った金がまだ使いきっておらず、それを出してきて彼に託して必要な家や土地を適当に値をつけて買い、これからの暮らしに備えようとした。かの封粛は半ばだまして半ば儲けて、彼に痩せた田んぼとぼろ家を与えた。士隠は読書人で、商売や農業に慣れておらず、なんとか一二年は持ち堪えたが、益々生活に困るようになった。封粛は面と向かっては、あたりさわりのないことを言っているが、彼のいないところでは彼らは暮らし向きも立てられない、食いしん坊の怠け者だと非難した。士隠は舅が信頼できないとわかり、心の中でひどく悔やんだが、前年の事件の恐怖、怒りや悲しみで、既に十分傷ついており、人生の晩年を迎え、貧困と病に交互に攻められ、次第にこの世を去る光景が脳裡をよぎるようになってきた。
● 殷実 yin1shi2 富んでいる。豊である
● 置 zhi4 買う。買い入れる
● 薄田 bo2tian2 やせた田畑
● 稼穡 jia4se4 広く農事を指す
● 現成話 xian4cheng2hua4 部外者の無責任な発言
● 好吃懶作 hao3chi1lan3zuo4 食いしん坊の怠け者
● 上年 shang4nian2 去年
● 驚嚇 jing1xia4 怖がってびくびくする
● 急忿 ji2fen4 いらだち怒る
● 怨痛 yuan4tong4 恨み悲しむ
● 暮年 mu4nian4 晩年
● 下世 xia4shi4 この世を去る
封粛毎見面時,便説些現成話,且人前人后又怨他們不善過活,只一味好吃懶作等語.士隠知投人不着,心中未免悔恨,再兼上年驚嚇,急忿怨痛,已有積傷,暮年之人,貧病交攻,竟漸漸的露出那下世的光景来.
この箇所は難しい。
封粛は面と向かっては、あたりさわりのないことを言っているが、彼のいないところでは彼らは暮らし向きも立てられない、食いしん坊の怠け者だと非難した。士隠は舅が信頼できないとわかり、心の中でひどく悔やんだが、前年の事件の恐怖、怒りや悲しみで、既に十分傷ついており、人生の晩年を迎え、貧困と病に交互に攻められ、次第にこの世を去る光景が脳裡をよぎるようになってきた。
の訳は苦心作だ。
現成話:部外者の無責任な発言は<あたりさわりのないことを言っている>ではない。ネット辞書では
解釋:
不以實力相助,卻從旁批評的話。《紅樓夢》第一回:「封肅每見面時,便說些現成話。」
とある。<從旁批評的話>は部外者の無責任な発言でよさそうだが、何か変だ。<不以實力相助>は<親身になって助ける>といた意味か?
且人前人后又怨他們不善過活,只一味好吃懶作等語
ネット辞書の解説に
人前人后:眾人前與私底下。多用來形容四處傳播話語。 例她因為氣不過,所以就人前人後到處向人說對方的壞話。
とある。例文からすれば<不善、よくないこと>を言い散らす、ということだろう。
上の訳文を以上の解説から、前半は
封粛は面と向かっては、部外者的な発言をしているがいるが、彼等のいないところでは<彼等はよくない>と言い散らし、食いしん坊の怠け者に過ぎないと言いふらしてした。
<只一味好吃懶作>の<一味>も意味があり、<只>と同じような意味があり、ここでは<只一味:過ぎない>の意だ。
この箇所は読みごたえがある。
ところで、<國哲學書電子化計劃>の方は、このあと
可巧這日拄了拐掙扎到街前散散心時,忽見那邊來了一個跛足道人,瘋狂落拓,麻鞋鶉衣,口內念著幾句言詞道:
世人都曉神仙好,惟有功名忘不了。古今將相在何方?荒塚一堆草沒了!
世人都曉神仙好,只有金銀忘不了。終朝只恨聚無多,及到多時眼閉了!
世人都曉神仙好,只有姣妻忘不了。君生日日說恩情,君死又隨人去了!
世人都曉神仙好,只有兒孫忘不了。癡心父母古來多,孝順子孫誰見了!
と続いているが、この箇所が 紅楼夢 第一回(その五)では抜けているが紅楼夢 第一回(その6)のはじめにある。
最後のところ、不幸のどん底の甄士隠は、きちがい坊主と再会し、そこで浮世のむなしさを詩に詠みます。可巧這日拄了拐杖掙挫到街前散散心時,忽見那辺来了一个跛足道人,瘋癲落脱,麻屣鶉衣,口内念着几句言詞,道是:
[訳]ちょうどこの日、杖をついて、なんとか我慢して通りまで出て気晴らしをしていた時、ふとあちらの方からびっこをひいた道士がやって来るのが見えた。気が狂って常軌を逸しており、草履にぼろぼろの服で、口の中でぶつぶつとことばを念じており、それが言うには:
● 拄 zhu3 (杖を)つく
● 拐杖 guai3zhang4 杖
● 掙挫 zheng4cuo4 =扎掙 zha1zheng どうにか我慢する。無理してこらえる
● 散心 san4xin1 気晴らしをする
● 瘋癲 feng1dian1 気が狂う
● 屣 xi3 靴
● 鶉衣 chun2yi1 ぼろぼろの服
世人都暁神仙好,惟有功名忘不了!
古今将相在何方?荒塚一堆草没了.
世人都暁神仙好,只有金銀忘不了!
終朝只恨聚無多,及到多時眼閉了.
世人都暁神仙好,只有姣妻忘不了!
君生日日説恩情,君死又随人去了.
世人都暁神仙好,只有儿孫忘不了!
痴心父母古来多,孝順儿孫誰見了?
[訳]世間の人は皆仙人がいいと知っているが、ただ功名を忘れることができない。
古今の将軍や宰相はどこにいるのか。荒れた塚には一群の草も生えていない。
世間の人は皆仙人がいいと知っているが、ただ金銀を忘れることができない。
一日中貯めた金が多くないことに文句を言うが、そのうち目を閉じ死んでしまう。
世間の人は皆仙人がいいと知っているが、ただ美しい妻を忘れられない。
君が生きていれば毎日恩愛の情を言うが、君が死ねば別の人に付いて行ってしまう。
世間の人は皆仙人がいいと知っているが、ただ子や孫を忘れられない。
子をいちずに思う父母は古来多いが、親孝行な子や孫を誰か見たことがあるか。
● 神仙 shen2xian1 仙人。なんの苦労も気がかりもなく悠々自適の生活をする人
● 塚 zhong3 塚。墓
● 終朝 zhong1zhao1 終日。一日中
● 姣 jiao1 みめうるわしい。美しい
● 恩情 en1qing2 慈しみ。恩愛の情
● 痴心 chi1xin1 いちずに思う心
● 孝順 xiao4shun4 親孝行をする
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士隱聽了,便迎上來道:「你滿口說些什麼?只聽見些『好了』『好了』。」那道人笑道:「你若果聽見『好了』二字,還算你明白!可知世上萬般『好』便是『了』,『了』便是『好』;若不『了』便不『好』;若要『好』,須是『了』。我這歌兒便叫《好了歌》。
士隱本是有夙慧的,一聞此言,心中早已悟徹,因笑道:「且住!待我將你這《好了歌》注解出來,何如?」道人笑道:「你就請解。」士隱乃說道:」
士隠聴了,便迎上来道:“你満口説些什麼?只聴見些‘好’‘了’‘好’‘了’”.那道人笑道:“你若果聴見‘好’‘了’二字,還算你明白.可知世上万般,好便是了,了便是好.若不了,便不好,若要好,須是了.我這歌儿,便名《好了歌》” 士隠本是有宿慧的,一聞此言,心中早已徹悟.因笑道:“且住!待我将你這《好了歌》解注出来何如?”道人笑道:“你解,你解。”士隠乃説道:
[訳]士隠はそれを聞くと、道士を出迎えて言った。「あなたが大きな声で言われていたのは何ですか。「好(よろしい)」「了(わかった)」「好」「了」しか聞こえなかったのですが。」その道士は言った。「あなたが「好」「了」の二字しか聞こえなかったのなら、あなたは理解されていると言える。世の中のあらゆる事が、良ければわかり、わかれば良い。もしわからなければ、良くなく、良くしないといけないなら、わからないといけない。私のこの歌は、《好了歌》という名です。」士隠は元々賢い人なので、このことを一度聞くと、十分理解した。そこで笑って言った。「待ってください。私があなたの《好了歌》を解釈してみたいのですが、如何でしょう?」道士は笑って言った。「どうか解釈してください。」士隠がそこで言うには:
● 満口 man3kou3 自信あふれる口調。大きな声
● 万般 wan4ban1 ありとあらゆる物事。万事
● 宿慧 su4hui4 もともと(平素から)聡明である
● 徹悟 che4wu4 十分理解する
● 且住 qie3zhu4 待ってください
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陋室空堂,當年笏滿床;衰草枯楊,曾為歌舞場。蛛絲兒結滿雕梁,綠紗今又糊在蓬窗上。說甚麼脂正濃,粉正香!如何兩鬢又成霜?昨日黃土隴頭埋白骨,今宵紅綃帳底臥鴛鴦。金滿箱,銀滿箱,轉眼乞丐人皆謗。正歎他人命不長,那知自己歸來喪?訓有方,保不定日後作強梁;擇膏粱,誰承望流落在煙花巷!因嫌紗帽小,致使鎖枷扛。昨憐破襖寒,今嫌紫蟒長。亂烘烘,你方唱罷我登場,反認他鄉是故鄉。甚荒唐,到頭來,都是為他人作嫁衣裳!
陋室空堂,当年笏満床,衰草枯楊,曾為歌舞場.蛛絲儿結満雕梁,緑紗今又糊在蓬窓上.説什麼脂正濃,粉正香,如何両鬢又成霜?昨日黄土隴頭送白骨,今宵紅灯帳底卧鴛鴦.金満箱,銀満箱,展眼乞丐人皆謗.正嘆他人命不長,那知自己帰来喪!訓有方,保不定日后作強梁.択膏粱,誰承望流落在煙花巷!因嫌紗帽小,致使鎖枷杠,昨怜破襖寒,今嫌紫蟒長:乱烘烘你方唱罷我登場,反認他郷是故郷.甚荒唐,到頭来都是為他人作嫁衣裳!
[訳]狭い空室だが、かつては字の書かれた笏(しゃく)が床一面になっていた。枯れた草や楊も、かつては歌舞場であった。蜘蛛の巣が彫刻をした梁中にかかっている。緑の薄衣が掛かっていたのに、今はヨモギが窓に張り付いている。紅(べに)が濃いとか白粉(おしろい)が匂うとか言っていたが、両方の鬢に白いものが混じるのを如何しよう。昨日は西域の黄土高原の隴山から死んだ兵士の白骨が送られてきたが、今宵は赤い提灯の帳の下で鴛鴦(おしどり)が寝ている。金の詰まった箱、銀の詰まった箱、見渡すと乞食が皆文句を言っている。他人の命が短いことを嘆いていると、自分が帰ってきて葬式に出されている。いくら教育しても、将来、強盗にならないとは限らない。金持ちの婿を選んでも、誰が遊郭に流れ落ちて女郎になり果てようと思うだろうか。役人になって、絹の帽子が小さいのを嫌っていた者が、罪に落ち手枷足枷をつけられている。昨日は破れた上着で寒さをあわれんでいたのが、今は紫の礼服の裾の長さを嫌がっている。むちゃくちゃにおまえが歌い終われば私が登場し、他人の郷のことだと思っていたことが、実は自分の故郷のことだと認めざるを得ない。実に荒唐無稽だが、ぎりぎりのところまでいくと、他人のために嫁入り衣装を作っているのだ。
● 陋室 lou4shi4 狭い部屋
● 笏 hu4 笏(しゃく)。大臣が朝見のとき右手に持つ細長い板。言上すべきことを裏に書いて備忘とした
● 謗 bang4 そしる。悪口を言う
● 方 fang1 方法。手段。処方箋
● 日后 ri4hou4 後日。将来
● 強梁 qiang2liang2 強暴である。横暴である
● 膏粱 gao1liang2 肥えた肉と上等な米。ごちそう。金持ち
● 承望 cheng2wang4 予想する(否定の形で用い、意外な感じを表す)
● 流落 liu2luo4 流れて(没落して)~へ行きつく
● 煙花巷 yan1hua1xiang4 花柳の巷。遊里
● 紗帽 sha1mao4 昔の文官のかぶった帽子の一種、官職のたとえ。
● 致使 zhi4shi3 ~の結果になる
● 鎖枷 jia1suo3 首かせと鎖(罪に落ち鎖につながれる)
● 扛 gang1 両手で重い物を差し上げる。物を担ぐ
● 蟒 mang3 “蟒袍”大臣が着た礼服。金色のウワバミの模様が刺繍してある
● 乱烘烘 luan4hong1hong1 “乱哄哄”:がやがや騒ぎたてる
● 到頭 dao4tou2 ぎりぎりのところまでいく。極限に達する
<國哲學書電子化計劃>
那瘋跛道人聽了,拍掌大笑道:「解得切,解得切!」士隱便說一聲「走罷」,將道人肩上的搭褳搶了過來背上,竟不回家,同著瘋道人飄飄而去。當下哄動街坊,眾人當作一件新聞傳說。封氏聞知此信,哭個死去活來,只得與父親商議,遣人各處訪尋。那討音信?無奈何,只得依靠著他父母度日。幸而身邊還有兩個舊日的丫鬟伏侍,主僕三人日夜做些針線,幫著父親用度。那封肅雖然每日抱怨,也無可奈何了。
那瘋跛道人聴了,拍掌笑道:“解得切,解得切!”士隠便説一声“走罷!”将道人肩上(衤荅)
(衤連)搶了過来背着,竟不回家,同了瘋道人飄飄而去.当下烘動街坊,衆人当作一件新聞伝説.封氏聞得此信,哭個死去活来,只得与父親商議,遣人各処訪尋,那討音信?無奈何,少不得依靠着他父母度日.幸而身辺還有両個旧日的丫鬟伏侍,主仆三人,日夜作些針線発売,帮着父親用度.那封粛雖然日日抱怨,也無可奈何了.
[訳]あの気の狂ったびっこの道士は聞いていたが、手を叩いて笑って言った。「そのとおり、そのとおり。」士隠はそこで一声かけた。「行きましょう。」道士の肩に掛けた袋をひったくって背負い、ついに家に帰らず、きちがい道士といっしょに飄々と行ってしまった。すぐさまそれは隣近所で話題になり、人々は事件伝聞と見做した。封氏はこの知らせを聞くと泣き崩れ、父親と相談し、人を遣って尋ね歩いたが、どこに音信があるだろうか。仕方なく、父母に頼って暮らした。幸いにも身辺にはふたりの昔からの召使が仕え、主人と召使の三人で日夜針仕事をして商売をし、父親の出費を助けた。かの封粛は毎日文句を言ったが、どうしようもなかった。
● 切 qie4 ぴったりする。適合する。合う
● (衤荅) (衤連) da1lian 財布の一種。二つ折りにして帯にぶらさげ、大きいものは肩に振り分ける。両端がそれぞれ袋になっている
● 当下 dang1xia4 すぐさま
● 烘動 hong1dong4 “轟動”沸き立たせる。センセーションを巻き起こす
● 街坊 jie1fang2 隣近所
● 死去活来si3qu4hui2lai2 気絶したり生き返ったりする。極度に悲しんだり苦しんだりする 哭個死去活来:“哭得死去活来” 身も世もなく泣く
● 討 tao3 求める
● 少不得 shao3bude2 なくてはならない。欠くことのできない
● 度日 du4ri4 暮らす。貧しい暮らしを指していうことが多い
● 伏侍 fu2shi “服侍”:仕える
● 針線 zhen1xian 針仕事。裁縫
● 用度 yong4du4 出費
< 家に帰らず、きちがい道士といっしょに飄々と行ってしまった。>が象徴的だ。
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這日,那甄家的大丫鬟在門前買線,忽聽得街上喝道之聲,眾人都說:「新太爺到任了。」丫鬟隱在門內看時,只見軍牢快手一對一對過去,俄而大轎內抬著一個烏帽猩袍的官府來了。那丫鬟倒發了個怔,自思:「這官兒好面善!倒像在那裡見過的?」於是進入房中,也就丟過,不在心上。至晚間,正待歇息之時,忽聽一片聲打的門響,許多人亂嚷,說:「本縣太爺的差人來傳人問話!」封肅聽了,唬得目瞪口呆。
不知有何禍事,且聽下回分解。
這日,那甄家大丫鬟在門前買線,忽聴街上喝道之声,衆人都説新太爺到任.丫鬟于是隠在門内看時,只見軍牢快手,一対一対的過去,俄而大轎抬着一個烏帽猩袍的官府過去.丫鬟倒発了個怔,自思這官好面善,倒象在那里見過的.于是進入房中,也就丟過不在心上.至晩間,正待歇息之時,忽聴一片声打的門響,許多人乱嚷,説:“本府太爺差人来伝人問話。”封粛聴了,嚇得目瞪口呆,不知有何禍事,且聴下回分解
[訳]この日、かの甄家の年上の召使が門の前で糸を買っていると、突然、街で先払いの声を聞き、人々は皆、新しい知事がお着きになったと言った。召使が門の内に隠れて見てみると、軍隊と警察が一組一組と通り過ぎていき、俄かに大きな駕籠に担がれて黒の帽子、緋色の官服の役人が通って行った。召使はびっくりしてぼおっとなった。この役人は顔に見覚えがあり、どこかで見たことがある。その後、部屋に入ると、そのことはすっかり忘れてしまった。夜になって、寝ようとしていた時、突然門を叩く音が聞こえ、たくさんの人が叫んで言うには、「当地の知事の使いの者がお尋ねしたいことをお伝えに参りました。」封粛はそれを聞くと、びっくりして呆然となった。どんな事件が起こったかは、次回にご説明いたします。
● 喝道 he4dao4 大官の外出の際に先払いをする
● 太爺 tai4ye2 知事
● 軍牢快手 jun1lao2kuai4shou3 軍隊や警察
● 対 dui (量詞)二つでひと組のものを数える
● 俄而 e2er2 にわかに
● 烏帽猩袍 wu1mao4xing1pao2 黒の帽子、緋色の官服
● 官府 guan1fu3 役人
● 発怔 fa1zheng4 ぼんやりする
● 面善 mian4shan4 顔に見覚えがある
● 丟 diu1 ほったらかす。忘れる
● 歇息 xie1xi 寝る
● 片 pian4 (量詞)状況、音声、話声、気持ちなど。ある範囲や程度を示す。数詞は一に限る
● 乱嚷 luan4rang3 やたらにわめく
● 差人 chai1ren2 “差事”:使い
● 伝人 chuan2ren 人に伝える
● 目瞪口呆 mu4deng1kou3dai1 呆然とする
原文もうだが、訳は大丫鬟(年上の召使)と丫鬟(召使)が出て来るがはっきりしない。丫鬟(召使)の方は、前に出てきた
<封粛はそれを聞くと、びっくりして呆然となった。どんな事件が起こったかは、次回にご説明いたします>という紙芝居のような気を持たせる言い方は中国小説の特徴。いわば連載小説なのだ。
<紅楼夢を読む>のコメント。
これにて、紅楼夢第一回は終わりです。紅楼夢のすごいところは、甄士隠や賈雨村、士隠の娘の英蓮、更には召使の女と、いわば脇役の人間模様もしっかり描かれていることで、その細かい描写は、第二回以降で出てきます。
sptt(注)
これは紅楼夢の真骨頂だろう。残念ながら <紅楼夢を読む>の第二回以降がみつからない。
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紅楼夢を読む
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